第26話「迫る赤眼の魔将」

ギアラ砦での勝利から三日目の朝、俺はアルヴェン将軍に呼び出された。砦内はまだ戦いの爪痕が残り、修復作業に忙しい兵士たちの姿が見える。勝利の高揚感は薄れ、新たな現実が目の前に広がっていた。 「ソウイチロウ」 作戦室に入ると、将軍は大きな地図を広げていた。その手が指す先——サンクライフ平原。砦から南へ約三日行程の広大な平原だ。 「昨夜、斥候から新たな報告が入った」将軍は厳しい表情で言った。「ラドルフ率いる帝国軍がサンクライフ平原に集結している。規模は約五千」 五千——ギアラ砦での戦いとは桁違いの数字だ。思わず息を呑む。 「そして、君にはこの平原の南端、コルム丘陵の防衛を任せたい」 将軍が指し示したのは、平原の南に位置する小さな丘陵地帯だった。平原の広大な戦場に比べれば小さな地域だが、そこは平原を見下ろす重要な高地だった。 「平原の南端、ですか?」 「そう。敵の補給路を押さえる要衝だ。ここを制する者が平原の戦いを制する」 将軍の言葉に、責任の重さを感じる。 「兵力は?」 「千名を与える。君の指揮下に置く」 これまでで最大の兵力だ。ギアラ砦では数百名だったのに、今度は千名。 「セリシアも参謀として同行する。彼女は既に準備を始めている」将軍は続けた。「また、フェリナも情報将校として同行を願い出た」 心強い仲間たちの名前に、少し安心感が広がる。 「……本当に、俺でいいんですか?」 思わず口から漏れた言葉。これほどの大任、本当に自分にできるのかという不安が胸をよぎる。 将軍は一歩近づき、俺の肩に手を置いた。 「君は『流れ』を読める。それが今、最も必要な才能だ」 その言葉に、少し自信が湧いてきた。 「わかりました。全力を尽くします」 将軍は頷き、作戦の詳細を説明し始めた。敵の予想される動き、我々の部隊配置、補給計画……。頭に入れるべき情報が次々と示される。 作戦会議が終わり、部屋を出ようとした時だった。 「ソウイチロウ」将軍が呼び止めた。「ラドルフは今回、全力で来る。ギアラでの敗北を許さない男だ」 「はい」 「彼の『魂の鎖』の力も、恐らく最大限に発揮されるだろう」 俺は黙って頷いた。ラドルフの赤い眼が脳裏に浮かぶ。あの日、一瞬だけ見た敵将の姿——圧倒的な存在感と、“流れ"を支配する異質な力。 「では、準備を始めてくれ。出発は明朝だ」 作戦室を出た俺は、急いで自分の部屋に向かった。荷物をまとめ、必要な書類を整理し、そして——ある小さな革袋を取り出す。 中から出てきたのは、小さな石の破片。タロカ牌を模して俺が自分で作った戦術ツールだ。これまでも使ってきたが、今回の戦いではさらに改良を加えたいと思っていた。 暫く石片を並べていると、ノックの音がした。 「どうぞ」 ドアが開き、セリシアが入ってきた。彼女は既に軽装の旅支度を整えており、手には地図と書類を持っていた。 「準備は進んでる?」彼女が尋ねた。 「ああ、少しずつね」俺は石片を示した。「これも改良中なんだ」 セリシアは興味深そうに近づき、石片を手に取った。 「タロカの応用ね」彼女は微笑んだ。「あなたらしいわ」 彼女の言葉に少し照れくさくなる。 「今回の敵は強大だよ」俺は真剣な表情で言った。「ギアラの比じゃない」 「そうね」セリシアも真剣な表情になった。「でも、あなたとなら勝てる」 彼女の言葉は単なる励ましではなく、確信に満ちていた。初めて会った頃の懐疑的な態度とは大違いだ。 「ラドルフの情報をもっと集めないとね」俺は言った。「彼の戦術パターンや弱点を……」 「それなら、私が役に立つわ」 ドアから別の声が聞こえた。フェリナが立っていた。 「フェリナ」俺は驚いて立ち上がった。「いつから?」 「今来たところよ」彼女は部屋に入り、大きな書類の束を広げた。「これ、ラドルフの過去の戦術記録。私なりに分析したものよ」 広げられた書類には、ラドルフの過去の戦いが克明に記録されていた。彼が採った布陣、攻撃パターン、兵の動かし方……全てが詳細に分析されている。 「すごいな」俺は感心して書類を見た。「こんなに詳しく……」 「彼に父を殺された身として、徹底的に研究してきたの」フェリナの声には強い決意が混じっていた。「今度こそ、彼を倒す」 俺とセリシアは顔を見合わせた。フェリナの復讐心は理解できるが、それが彼女を危険に導くことも懸念される。 「フェリナ」俺は優しく言った。「情報は本当にありがたい。でも、無茶はしないでくれよ」 「わかってるわ」彼女は小さく微笑んだ。「もう独りよがりの復讐じゃない。私たちの勝利のために戦う」 その言葉に安心する。ギアラでの戦いを経て、フェリナも成長したようだ。 三人で資料を広げ、作戦会議を始めた。セリシアが地図上に兵の動きを示し、フェリナがラドルフの予想される戦術を説明。俺はタロカ石を並べながら、“流れ"を可視化していく。 「コルム丘陵の地形を活かした布陣が重要ね」セリシアが言った。「敵は平原から登ってくるしかないから、高所の利を最大限に活かせる」 「でも、ラドルフは単純な正面攻撃はしないわ」フェリナが指摘した。「彼は必ず迂回路を探す。特に夜間の奇襲が得意」 「なるほど」俺は頷き、タロカ石を動かした。「なら、彼の『魂の鎖』の届かない場所に伏兵を配置すれば……」 会議は夕方まで続いた。夕食の時間が近づき、三人は一旦休憩することにした。 「では、夕食後にまた集まりましょう」セリシアが言った。「出発の細かい段取りを決めないと」 三人が部屋を出ようとしたとき、廊下から騒がしい声が聞こえてきた。 「報告! 敵軍の動きに変化が!」 息を切らした伝令兵が走ってきた。俺たちは急いで作戦室に向かった。 作戦室には既にアルヴェン将軍と数名の高官が集まっていた。彼らは新たに届いた地図を囲み、険しい表情で何かを議論している。 「何があったんですか?」俺が尋ねた。 将軍は俺たちに気づき、手招きした。 「ラドルフが予想より早く動き出した」将軍は言った。「彼らは既に平原の北端に到達している」 地図を見ると、確かに敵軍の位置が大幅に前進していた。予定より少なくとも二日は早い。 「これでは、コルム丘陵に部隊を展開する時間が……」セリシアが懸念を示した。 「そうだ」将軍は厳しい表情で頷いた。「出発を早める必要がある。今夜中に出発できるか?」 ...

2025-03-27 00:00 · 折口詠人

第27話「開戦前夜」

コルム丘陵の夜は冷たかった。平原からの風が吹き上げ、野営地のテントを揺らす。俺は指揮官テントで地図を広げ、明日の戦いに備えて最後の作戦会議を開いていた。 「敵は夜明けと共に全軍で攻めてくるでしょう」 シバタ大尉が地図上の敵軍位置を指さす。夕方の斥候報告によれば、敵の本隊も平原中央部に到達し、先遣隊と合流したという。総勢約五千——我々の五倍の兵力だ。 「正面からの攻撃だけでなく、側面からも必ず来るわ」 フェリナが丘陵の東西を指す。斜面は急ではあるが、訓練された兵士なら登れないことはない。 「そうですね」俺は頷いた。「おそらく東西からの迂回も計画しているでしょう。ラドルフならなおさら」 地図を見つめる顔々は疲れを隠せない。特にセリシアは昨夜からほとんど休んでおらず、目の下にクマができていた。それでも彼女は集中力を切らさず、緻密な防衛計画を立てていた。 「東の斜面にはカレン隊長の部隊を、西にはバルト隊長の部隊を配置します」セリシアが言った。「どちらも200名ずつ。機動力のある兵で構成し、必要に応じて互いに応援できるようにしましょう」 その提案は理にかなっていた。限られた兵力で広い範囲をカバーするには、機動力が鍵となる。 「残る600名は正面防衛だな」シバタ大尉が頷いた。「丘の頂上部と中腹の2ラインに分けて配置する」 議論は細部に及び、夜も更けていった。兵士たちの配置、伝令の経路、予備兵力の使い方——あらゆる可能性を想定して計画を練る。 俺はタロカ石を並べながら、敵の動きを予測していた。“流れ"を読む——それが俺の武器であり、強みだ。ラドルフの「魂の鎖」が"流れを殺す"力なら、俺の"読み"はそれを超える必要がある。 「ソウイチロウ」 シバタ大尉の声で我に返る。どうやら少し考え込んでいたようだ。 「すまない」俺は頭を振った。「少し考え事を……」 「無理もない」大尉は優しく言った。「今夜は早めに休め。明日に備えて体力を温存するんだ」 会議は夜半過ぎに終了した。明日の布陣が決まり、各隊長に指示が伝えられる。フェリナもシバタ大尉も自分のテントに引き上げていった。 テントに残ったのは俺とセリシアだけだ。彼女は最後の報告書に目を通していた。疲労で肩が下がり、ペンを持つ手が小刻みに震えている。 「セリシア」俺は声をかけた。「もう休もう。これ以上無理しても仕方ない」 彼女は顔を上げ、疲れた目で俺を見た。 「でも、まだ確認していない計算が……」 「明日の朝でいい」俺は言った。「君も体を休めないと」 セリシアは一瞬抵抗しようとしたが、やがて諦めたように溜息をついた。 「そうね……少し休むわ」 彼女がペンを置いたとき、ふらりと体が傾いた。俺は慌てて彼女の肩を支えた。 「大丈夫か?」 「ええ……ちょっとめまいが」セリシアは弱々しく笑った。「少し仮眠を取ればすぐに良くなるわ」 俺は彼女の様子を心配した。無理を重ねすぎたのだろう。 「俺のテントで休んだらどうだ?」俺は提案した。「ここより少し広いし、静かだから」 本来なら司令官用のテントは一番広いはずだが、今回の急な出陣で俺のテントが通常より大きく割り当てられていた。 「ありがとう」セリシアは素直に頷いた。「少しだけお借りするわ」 二人で中央テントを出ると、静かな夜の野営地が広がっていた。兵士たちの多くは既に眠りについており、焚き火の番人だけが静かに夜を見守っている。北の空には依然として赤い光が見え、不吉な予感を掻き立てた。 「明日……勝てると思う?」 テントに向かう途中、セリシアが小さな声で尋ねた。普段の彼女らしからぬ弱気な問いに、少し驚く。 「勝つよ」俺は迷わず答えた。「必ず」 その言葉に、セリシアは一瞬だけ微笑んだ。疲れた顔に浮かんだその笑みが、妙に胸に染みた。 「そうね」彼女は静かに言った。「あなたが言うなら、そうなんでしょう」 俺のテントに着くと、中は予想以上に簡素だった。野戦用の寝床が一つ、簡易な机と椅子、それに荷物が少々——それだけだ。 「寝床を使ってくれ」俺は言った。「俺は床でいい」 セリシアは困ったように眉を寄せた。 「でも、それじゃあなたが……」 「気にするな」俺は笑った。「麻雀合宿で床に寝た経験は山ほどあるさ」 前世の記憶が無意識に口をついて出た。セリシアはきょとんとした顔をしたが、特に追及せずに頷いた。 「でも」彼女は寝床を見て言った。「一人用にしては広いわね。仮眠程度なら……二人で使えるんじゃない?」 その提案に、俺は思わず顔が熱くなるのを感じた。狭い寝床で隣り合って寝るなんて……。 「いや、それは……」 「別に変な意味じゃないわよ」セリシアは少し赤くなりながらも冷静に言った。「戦場では効率が大事でしょう。それに、うつらうつらするだけだから」 彼女の言い分は理にかなっていた。確かに戦場では不必要な遠慮をする余裕はない。それに、彼女の体調が心配だったし……。 「わかった」俺は渋々同意した。「でも、ちゃんと休めるか?」 「大丈夫よ」セリシアは言った。「お互い背中合わせにすれば問題ないわ」 二人は装備を一部だけ外し、寝床に横になった。予想通り狭く、背中と背中がくっつきそうになる。お互いぎこちなく体を固くして、できるだけ触れないよう気を遣う。 「おやすみ」俺は小さく言った。 「おやすみなさい」セリシアも静かに応じた。 テントの中は静寂に包まれた。外では夜風が吹き、時折兵士の足音や遠くの馬の嘶きが聞こえる。俺は天井を見つめながら、明日の戦いについて考えていた。 隣のセリシアの呼吸が次第に整ってきた。彼女はやはり疲れていたのだろう、すぐに眠りについたようだ。俺も目を閉じ、休もうとする。 時間が過ぎ、俺もうとうとし始めた。半分眠りかけていた時、無意識に体を動かしたのだろう。手が何かに触れた感触がする——柔らかく、なめらかな感触。 はっと目を開けると、俺の手はセリシアの髪に触れていた。いつの間にか彼女は仰向けになっていたようで、長い銀色の髪が寝床に広がっていた。 慌てて手を引こうとしたとき、セリシアの目が開いた。 「……何をしてるの?」 彼女の声は眠たげでありながらも、明らかに緊張していた。 「す、すまない」俺は慌てて謝った。「寝返りを打った時に、無意識に……」 言葉が途切れる。どう説明していいかわからない。 セリシアはしばらく俺を見つめていた。月明かりがテントの隙間から差し込み、彼女の顔を青白く照らしている。 「……戦場で髪を触るなんて、無神経ね」 彼女は低く呟いた。その声には非難めいたものが感じられたが、同時に奇妙な柔らかさもあった。 「本当にすまない」俺は再び謝った。「俺が床に移るよ」 「いいわ」セリシアは言った。「動かないで。せっかく温まったのに、また冷えるだけよ」 彼女は背を向け、再び横になった。その横顔は、月明かりの中でわずかに赤みを帯びていたように見えた。 (こういうの、タロカにはなかったな……) 思わず心の中で苦笑する。麻雀やタロカのルールにはない状況だ。こんな気まずい空気の流れは、どう"読む"べきなのか——。 ...

2025-03-27 00:00 · 折口詠人

第28話「赤眼の布陣」

コルム丘陵に朝日が昇り始めた。大地を金色に染める光の中、敵の大軍が黒い潮のように押し寄せてくる。その整然とした行進は、ラドルフの「魂の鎖」の効果を如実に示していた。 「正面から三部隊、側面から二部隊」 フェリナが双眼鏡で観察し、報告する。「間違いなく三正面同時攻撃よ」 俺は丘の頂上に立ち、敵の布陣を見渡した。ラドルフは平原の利を活かし、広大な前線で攻撃を仕掛けてきている。正面からの主力に加え、東西からも挟撃する形だ。 「予想通りね」セリシアが地図を見ながら言った。「でも、側面部隊が予想より大きいわ」 確かに、東西から迂回してくる敵部隊はそれぞれ千名はいるだろう。俺たちの側面防衛は各200名——数で見れば圧倒的に不利だ。 「『光の矢』作戦の準備はいいか?」俺はシバタ大尉に尋ねた。 「ああ」大尉は頷いた。「選抜部隊100名が待機している。合図があり次第、行動開始だ」 敵はすでに丘陵の麓に到達し、登攀の準備を始めていた。先遣隊が斜面を上り始め、主力が続く。東西の部隊も同様に、側面から登り始めている。 「弓兵隊、準備!」 セリシアの命令で、丘の上に配置された弓兵たちが弓を構えた。敵が射程に入るのを待っている。 「まだだ……」俺は敵の動きを見つめていた。「もう少し近づけさせろ」 敵の先遣隊が斜面を三分の一ほど上ったところで、セリシアが剣を高く掲げた。 「発射!」 彼女の命令と共に、弓兵たちが一斉に矢を放った。空を裂く音と共に、矢の雨が敵の隊列に降り注ぐ。 多くの敵兵が倒れたが、後続の兵士たちは躊躇うことなく前進を続けた。倒れた仲間を踏み越え、まるで機械のように登ってくる。 「魂の鎖の効果ね」フェリナが唇を噛んだ。「恐怖も痛みも感じない」 再び矢が放たれ、さらに敵兵が倒れた。しかし、その効果は限定的だ。余りにも数が多すぎる。 「東側が危険です!」 伝令が駆け込んできた。「敵が想定より早く斜面を上がっています!」 俺はすぐにカレン隊長率いる東側防衛部隊に指示を送った。「予備兵力を東に回せ。彼らを足止めしろ」 戦いは各所で激化し始めた。丘陵の斜面のあちこちで剣戟の音が響き、叫び声が上がる。我々の兵士たちは善戦しているが、敵の数は圧倒的だ。 「こちらは持ちこたえています!」 西側からバルト隊長の報告が届いた。彼の部隊は地形を巧みに利用し、敵の進攻を遅らせている。 俺は指揮台から戦況全体を見渡した。東側がやや危険、西側は何とか持ちこたえている、正面は敵の主力がまだ登り始めたばかり——。 「ソウイチロウ」 シバタ大尉が近づいてきた。「そろそろ『光の矢』を実行すべきでは?」 俺はタロカ石を握り締め、“流れ"を読もうとした。敵の動き、戦場の空気、兵士たちの状態——全てを総合して判断する。 「まだだ」俺は答えた。「敵の主力がもう少し前に出るのを待つ」 戦いは激しさを増していった。東側では、カレン隊長の部隊が必死に敵を食い止めようとしている。彼らはあらかじめ用意した障害物や落とし穴を利用し、敵の進撃を妨げていた。 西側では、バルト隊長が機動戦術を展開。小部隊に分かれて敵の側面を突き、混乱させている。 しかし、正面では敵の主力がじわじわと近づいてきていた。彼らの中心には赤い旗が高く掲げられ、その下にラドルフの姿があった。 「ラドルフが動いている」フェリナが報告した。「彼は中央の手前で指揮を執っている」 双眼鏡で見ると、確かに赤い鎧を着けたラドルフが部下に指示を出している様子が見えた。彼の周りには精鋭部隊が固く守りを固めており、容易には近づけない。 「東側が持ちません!」 突然、緊急の伝令が届いた。「敵が防衛線を突破しました!」 セリシアが地図に新たな敵の位置を書き込んだ。「東側の最初の防衛線が破られたわ。このままでは側面から包囲される」 事態は急速に悪化していた。もはや躊躇している時間はない。 「『光の矢』作戦、実行」俺は決断した。「シバタ大尉、頼む」 大尉は頷き、待機していた伝令に指示を出した。伝令兵が丘の裏側へと走っていく。 「本当にやるのね」フェリナが不安そうに言った。「危険すぎるわ」 「勝つためには必要だ」俺は静かに答えた。「ラドルフの『流れ』を変えるには」 『光の矢』作戦——それは俺が考案した奇策だった。丘の裏側に隠しておいた精鋭100名が、北東の崖沿いを迂回し、敵の後方から不意打ちを仕掛けるという作戦だ。成功すれば敵の陣形が乱れ、「魂の鎖」の効果も薄れるかもしれない。 しかし、失敗すれば100名の兵士が孤立し、全滅する危険性もある。それは文字通り、命を賭けた賭けだった。 「東側の援軍はどうする?」セリシアが尋ねた。 「正面の予備兵力50名を回せ」俺は命じた。「カレン隊長に伝えろ——あと30分持ちこたえてくれ」 予備兵力が東側に向かい、俺たちは再び戦局を見守る。『光の矢』部隊が作戦を実行するまでの間、何としても持ちこたえなければならない。 戦況は厳しさを増すばかりだった。東側では援軍が到着し、何とか敵の進撃を遅らせているが、完全に止めるには至らない。西側も同様に苦戦し、正面では敵の主力が着実に近づいてきていた。 「この調子では、一時間と持たないわ」セリシアの声には緊張が滲んでいた。 「信じろ」俺は言った。「俺たちの兵を、そして『光の矢』を」 時間が経過し、戦況はさらに悪化していった。東西両側で敵が押し寄せ、正面からも大軍が迫る。三方向からの挟撃——まさにラドルフの意図した通りの展開だ。 「敵の主力部隊、丘の中腹に到達!」 伝令の報告に、皆の表情が引き締まる。いよいよ決戦の時だ。 その時、東の空に一筋の光が走った。続いて、敵の後方から角笛の音が響いた。 「『光の矢』が動いた!」シバタ大尉が声を上げた。 双眼鏡で見ると、敵の後方で混乱が起きている様子だった。我が精鋭部隊が崖沿いから現れ、敵の補給隊を襲撃したのだ。 「成功したわ!」フェリナの声に興奮が混じる。「敵の後方が混乱している!」 作戦は成功していた。精鋭部隊は敵の予想外の場所から現れ、後方の守りが薄い部分を突いた。補給隊や伝令が混乱し、ラドルフへの連絡系統も寸断されたようだ。 敵陣の一部で動きが止まり、混乱の兆候が見え始めた。特に東側を攻めていた部隊が、後方の騒ぎに気を取られ、進撃の勢いが弱まっている。 「今がチャンスだ」俺は決断した。「東側反撃開始! カレン隊長に伝えろ」 準備していた命令が下され、東側の我が軍が反撃に転じた。彼らは急な斜面を利用して敵を押し返し始める。 一方、西側のバルト隊長にも同様の指示が出された。彼の部隊も機動力を活かし、敵の隙を突いて反撃を開始する。 戦況が一変し始めた。敵の進撃が止まり、一部では後退の動きも見られる。「魂の鎖」の効果が及ばない範囲が広がったのか、敵兵の中には混乱し、統制を失う者も出てきた。 「ラドルフの様子は?」俺はフェリナに尋ねた。 「動揺しているわ」彼女が双眼鏡を覗きながら答えた。「彼は急いで部下に指示を出している。恐らく態勢の立て直しを図っているのでしょう」 『光の矢』作戦は、ラドルフの予想を超える一手となった。彼の完璧な布陣に揺さぶりをかけ、僅かだが隙を生み出したのだ。 「正面からの総反撃を」俺は命じた。「今こそ敵の混乱に乗じるときだ」 丘の中腹に控えていた主力部隊が、セリシアの指揮の下、一斉に動き出した。彼らは敵の主力に突撃し、戦場に雄叫びが響く。 俺はタロカ石を並べ直しながら、戦況の変化を追っていた。“流れ"が変わり始めている——敵の混乱、我が軍の士気の高まり、そして最も重要な要素、ラドルフの動揺。 ...

2025-03-27 00:00 · 折口詠人

第29話「見えない一手」

コルム丘陵の二日目の朝は静かに始まった。昨日の激戦で両軍とも疲弊し、早朝から動き出す気配はない。丘の上の我が陣営では、夜間に防衛線を補強し、負傷者の治療を終えた兵士たちが、次の戦いに備えて休息を取っていた。 俺は早くに目を覚まし、指揮所の高台から敵陣を見渡していた。平原の北側に広がる敵の大軍。昨日の戦いで減ったとはいえ、まだ我々の三倍以上の兵力を有している。そして、陣営の中央には相変わらず赤い旗が掲げられ、ラドルフの存在を示していた。 「よく眠れたか?」 シバタ大尉が近づいてきた。彼もまた早起きしたようだ。 「ええ、案外と」俺は答えた。「あなたは?」 「老兵の習性でな」大尉は微笑んだ。「戦いの前は自然と目が覚める」 二人で敵の動きを観察していると、フェリナが駆け寄ってきた。彼女は夜間の斥候から情報を集めていたようだ。 「報告があるわ」彼女は少し息を切らせながら言った。「敵は夜間に増援を受けたみたい。約千名が北から到着したのを確認したわ」 その知らせに、思わず眉をひそめる。 「増援か……」大尉も厳しい表情になった。「これで敵はさらに優位になったな」 フェリナはさらに続けた。「それだけじゃないわ。彼らは何か大きな物を組み立てているようなの。斥候たちには遠くからしか見えなかったけど、攻城兵器のようなものよ」 「攻城兵器?」俺は驚いた。「丘陵を登るための?」 「おそらくね」フェリナは頷いた。「何か斬新な方法で丘を攻略しようとしているんでしょう」 戦況はさらに不利になっていた。敵は兵力を増強し、新たな攻城兵器まで用意している。対して我々は、昨日の戦いで約150名の死者を出し、300名が負傷している。実質的な戦力は550名ほど——敵の六分の一にも満たない。 「セリシアの様子は?」俺は尋ねた。 「朝から動き回ってるわよ」フェリナは少し呆れたように言った。「腕の傷も構わずに、各部隊の配置を確認してる」 その話を聞いて少し安心した。セリシアが元気なら、戦術面での心配は少ない。彼女の冷静な判断力は、この窮地で必ず役立つはずだ。 「作戦会議を開こう」俺は決断した。「各隊長を集めてくれ」 伝令が走り、間もなく指揮所にはセリシア、カレン隊長、バルト隊長、そして『光の矢』部隊を率いるマーロン少尉が集まった。 セリシアは確かに腕に包帯を巻いていたが、表情は冷静そのもので、地図を広げて状況を分析し始めた。 「敵の増援と攻城兵器の配置から見て」彼女は言った。「今日は正面からの総攻撃を仕掛けてくると思われます。昨日の側面攻撃は、あくまで牽制だったのかもしれません」 皆が頷く。その分析は理にかなっていた。 「我々の対応案は?」シバタ大尉が尋ねた。 セリシアが答えようとしたとき、俺は一歩前に出た。 「一つ、提案がある」 全員の視線が俺に集まる。 「敵は今日、全力で来る」俺は言った。「彼らには兵力の優位があり、新たな攻城兵器もある。正面からの防衛戦では、我々に勝ち目はない」 重い空気が流れる。皆、現実を理解していた。 「だから、俺たちは別の戦い方をする」俺は続けた。「見えない一手を打つ」 「見えない一手?」バルト隊長が首を傾げた。 俺はタロカ石を取り出し、地図の上に並べ始めた。「我々の丘陵の裏側、南にはサラク川が流れている。その川に沿って西へ約5キロ行くと、ダレスの森がある」 地図上の場所を指し示す。 「そして、森の中には古い洞窟が……」 「待って」カレン隊長が驚いて声を上げた。「あなた、ダレスの洞窟を知ってるの?」 「ああ」俺は頷いた。「昨夜、古地図を調べていてね」 実際には、昨日のうちにフェリナと共に地元の案内人から情報を集めていたのだ。この地域の秘密の抜け道について。 「その洞窟は、かつて密輸業者が使っていた通路だ」俺は説明を続けた。「そして、最も重要なことに——その洞窟の出口は、ちょうど敵陣の北西、彼らの後方に位置している」 全員が息を呑んだ。俺の言わんとすることが理解できたようだ。 「あなたは……」セリシアが目を見開いた。「敵の後方を襲撃する気?」 「そうだ」俺はきっぱりと言った。「敵が総攻撃に出ている間に、我々の精鋭部隊が後方から奇襲をかける」 部屋が静まり返った。それは大胆すぎる作戦だった。危険でもあり、成功すれば戦況を一変させる可能性もある。 「誰が行くんだ?」シバタ大尉が尋ねた。 「俺が率いる」俺は答えた。「『光の矢』部隊の精鋭100名と、さらに志願者を募って200名ほどの部隊を編成する」 「ソウイチロウ」大尉の表情が厳しくなった。「それは指揮官としてあまりに危険だ。失敗すれば全軍の士気に関わる」 「だが、成功すれば勝機がある」俺は強く言った。「敵は我々の正面防衛に全力を集中させるだろう。そのとき、後方から不意打ちを食らえば、どんな軍でも混乱する」 セリシアは黙って考え込んでいたが、やがて静かに口を開いた。 「異端の策だけど、勝ち筋だわ」彼女は言った。「この状況で正面から戦えば、じわじわと押し潰される。奇策に出るしかない」 その言葉に、他の隊長たちも同意し始めた。 「しかし」セリシアは続けた。「あなたが行くべきではないわ。あなたは全軍の指揮官。ここにいるべきよ」 「そうだ」シバタ大尉も同意した。「洞窟部隊の指揮は私が執る。あなたは丘を守れ」 俺は二人の言葉に感謝しつつも、首を横に振った。 「いや、俺が行く」俺は決意を示した。「この作戦は『読み』の力が必要だ。敵の陣の中で、最も効果的な打撃を与える場所と時間を見極めなければならない」 大尉とセリシアは反対の色を見せたが、俺の決意は固かった。 「セリシア、あなたに全軍の指揮を任せる」俺は言った。「あなたなら丘を守れる。シバタ大尉には、正面防衛の指揮をお願いしたい」 二人は渋々ながらも、最終的には同意した。 「ソウイチロウ」セリシアは真剣な眼差しで俺を見た。「必ず戻ってきて」 その言葉に、少しだけ胸が熱くなった。 「ああ、約束する」 作戦の詳細が決まり、各自が準備に取り掛かった。時間との勝負だ。敵が攻撃を開始する前に、洞窟部隊を送り出さなければならない。 志願者を募ると、予想以上の兵士が名乗り出てくれた。彼らの中には、昨日の『光の矢』作戦で活躍した兵士も多く、士気は高かった。最終的に、マーロン少尉率いる『光の矢』部隊100名と、新たに志願した150名の計250名で洞窟部隊が編成された。 「出発は一時間後」俺は部隊に告げた。「軽装で、三日分の食料と水を持て。静かに、目立たぬよう丘の裏手から降りる」 準備が進む中、フェリナが近づいてきた。 「私も行くわ」彼女はきっぱりと言った。 「フェリナ」俺は驚いた。「君は情報将校だ。戦闘部隊じゃない」 「でも、私の情報収集能力は現地で役立つはず」彼女は言い張った。「それに……」 彼女の目に決意の色が浮かぶ。 「ラドルフがいる場所に、私も行きたいの」 彼女の気持ちを理解した。彼女にとってラドルフは、単なる敵将ではない。父を殺された仇であり、復讐の対象だ。 「わかった」俺は頷いた。「だが、無理はするな。君の命は大切だ」 フェリナは小さく微笑んだ。 ...

2025-03-27 00:00 · 折口詠人

第30話「少年は神子と呼ばれた」

コルム丘陵の戦いから三日が経った。負傷者の手当て、兵站の整理、報告書の作成——戦後の雑務に追われる日々。俺はテントの中で、執務机に向かって最後の報告書を書き上げていた。 「勝利は『光の矢』部隊の奮闘と全兵士の尽力によるものであり、指揮官としての功績を自認するものではない」 ペンを置き、長い報告書を見直す。伝わるだろうか、この感覚は。俺はただ、麻雀(タロカ)で培った"読み"を応用しただけなのに、その結果がこれほど大きな勝利につながるとは——。 テントの入口から日差しが差し込んでいた。外では兵士たちが荷物をまとめる音がする。今日、我々はコルム丘陵を離れ、王都へと戻る予定だった。 「まだ書いてるの?」 セリシアがテントに入ってきた。彼女の腕の包帯は外れていたが、まだ傷跡が残っている。 「ああ、やっと終わったよ」俺は少し疲れた表情で言った。「こんなに報告書を書くなんて、麻雀合宿でも経験したことないよ」 「麻雀って何?」セリシアが首を傾げた。 しまった。前世の言葉が口をついて出た。 「あ、いや、タロカの古い言い方だよ」俺は慌てて取り繕った。「方言みたいなもので」 セリシアは不思議そうな表情をしながらも追及せず、テントの中を見回した。 「荷物は纏まった? もうすぐ出発よ」 「ほとんど終わってる」俺は頷いた。「あとはこの報告書を提出するだけだ」 セリシアは俺の隣に座り、報告書に目を通した。 「あなたらしいわね」彼女は少し笑みを浮かべた。「自分の功績を認めようとしない」 「功績なんてものじゃないよ」俺は首を振った。「みんなが命を賭けて戦ったからこそ勝てたんだ」 「そうね」セリシアは頷いた。「でも、指揮官の策が優れていなければ、ここまでの勝利は得られなかったわ」 彼女の言葉に、少し照れくさくなった。 「兵士たちの間では、あなたのことを『戦術の神子』と呼び始めてるわよ」彼女は意味ありげな視線を送った。 「な、何だって?」俺は驚いた。「冗談だろ?」 「冗談じゃないわ」セリシアは真剣な表情になった。「あなたの戦術は異端だった。常識では考えられない奇策。でも、それこそが勝ち筋だった」 彼女の評価に、言葉が見つからなかった。 「フェリナの様子は?」話題を変えるように俺は尋ねた。 「かなり良くなってきてるわ」セリシアは答えた。「今朝から歩けるようになって、自分で支度をしてるわよ」 それは良いニュースだった。フェリナの傷は思ったより深く、一時は危険な状態だったほどだ。彼女が回復に向かっていることが分かり、胸をなでおろした。 報告書を片付け、二人でテントを出る。外では兵士たちが出発の準備を進めていた。荷車に荷物を積み、馬に鞍を置き、隊列を整えている。 丘の頂上からは、数日前まで激戦地だった平原が見渡せた。今は静かな風景が広がり、戦いの痕跡も少しずつ消えつつある。 「陛下からの使者が到着しています」 伝令が俺たちに近づいてきた。「シバタ大尉が会議テントでお待ちです」 俺とセリシアは顔を見合わせ、急いで会議テントに向かった。 テントの中には、シバタ大尉、グレイスン大佐、そして見慣れない豪奢な服装の人物がいた。王都からの使者だろう。 「やあ、ソウイチロウ」大尉が俺を見て微笑んだ。「これがロイ伯爵、陛下の側近だ」 中年の貴族風の男性が俺に向かって軽く頭を下げた。 「ソウイチロウ・エストガード殿」彼は格式ばった口調で言った。「コルム丘陵の勝利、誠におめでとうございます。陛下も大変お喜びです」 「ありがとうございます」俺は少し緊張しながら答えた。「しかし、勝利は全兵士の尽力によるものです」 伯爵は微笑んだ。「謙虚な若者ですな。しかし、その才覚は既に王国中に知れ渡っております」 王国中に? そんなに早く噂が広まるものなのだろうか。 「陛下からの親書をお持ちしました」伯爵は金色の紋章で封された巻物を差し出した。「コルム丘陵の戦功により、あなたに『王国戦術師』の称号が授けられます」 俺は驚いて巻物を受け取った。王国戦術師? そんな重大な称号など、受ける資格があるとは思えない。 「これは……」言葉に詰まる俺に、シバタ大尉が助け舟を出した。 「名誉ある称号だ、ソウイチロウ」大尉は嬉しそうに言った。「その称号を受けた者は歴史上でも数えるほどしかいない」 伯爵は続けた。「また、陛下は謁見を望んでおられます。王都に戻られましたら、直ちに王宮へお越しください」 これは想定外の展開だった。俺のような若造が王に謁見するなど、考えられないことだ。 「わかりました」しかし、断る選択肢はない。「謹んで拝謁させていただきます」 伯爵は満足そうに頷き、さらに説明を続けた。王都では既に俺の戦功を讃える噂が広まっており、「戦術の神子」「軍神の再来」などと呼ばれているという。 話を聞きながら、俺の心は複雑だった。前世では大学受験に失敗し、麻雀に明け暮れる日々。親からは「ダメ息子」と呆れられたものだ。それが今や「神子」と称されるとは——なんという皮肉だろう。 会議が終わり、伯爵は先に王都へ向かった。我々も間もなく出発する予定だ。 テントから出ると、フェリナが杖をつきながら近づいてきた。顔色はまだ少し悪いが、以前より確実に元気そうだった。 「おはよう」彼女は微笑んだ。「やっと歩けるようになったわ」 「無理するなよ」俺は心配そうに言った。「まだ完全に治ってないだろ?」 「大丈夫、命を預けてよかったって思えるくらいには回復してるわ」彼女は冗談めかして言った。 その言葉に、少し胸が熱くなった。 「王国戦術師になったんですって?」フェリナが俺の表情を見て尋ねた。「噂はあっという間に広まるのね」 「まだ実感がないよ」俺は正直に答えた。「こんな称号、受ける資格があるとは思えない」 「あなたこそふさわしいわ」フェリナはきっぱりと言った。「私が見てきた中で、あなたほど局面を読み、流れを変えられる人はいない」 フェリナとセリシア、二人からそう言われると、少しだけ認めざるを得ない気持ちになった。 「とにかく、王都に戻ろう」俺は話題を変えた。「旅の準備はできてる?」 「ええ」彼女は頷いた。「少し動くと疲れるけど、馬車なら大丈夫よ」 出発の時間が近づく中、俺は最後にもう一度丘の頂上に立った。ここでの戦いは俺にとって大きな転機となった。敵将ラドルフとの初めての大規模な戦い、そして勝利——それは単なる軍事的勝利を超えた意味を持っていた。 北の平原には既に敵の姿はなく、ただ静かな風景が広がっている。しかし、ラドルフはまだ諦めていないだろう。彼との戦いは、これからも続く。 「もう出発の時間よ」 セリシアの声で、俺は物思いから我に返った。 「ああ、行こう」 二人で丘を下り、隊列の先頭に立った。シバタ大尉、フェリナ、そして千名ほどの兵士たち。皆が俺を見る目が、以前とは少し違っていた。尊敬、畏怖、期待——様々な感情が入り混じった視線だ。 「全軍、出発!」 俺の号令と共に、兵士たちが動き出した。コルム丘陵を後にし、王都に向かう長い道のり。この戦いで失われた命の重みを胸に、俺たちは静かに行進を始めた。 *** ...

2025-03-27 00:00 · 折口詠人