第1話「受験に失敗した日、俺は雀荘にいた」

「不合格です。残念ながら」 真っ白な用紙に書かれたその二文字を見ても、なぜか実感が湧かなかった。あぁ、俺、落ちたんだ。でも、意外にも心は平静のままだった。 「そっか」 スマホの画面を消して、俺——三崎宗一郎はポケットにそれを滑り込ませた。大学の受験発表サイト。名前が載っていないことを確認するために五回くらい更新したけど、結果は変わらなかった。 高校三年間、麻雀に明け暮れた結果がこれだ。 「まぁ、そうなるよな」 自分でも笑っちゃうくらい、あっさり受け入れてる自分がいる。予備校の模試でもギリギリの判定だったし、何より一番勉強すべき時期に雀荘に入り浸ってた。毎日放課後は決まって同じ場所。家に帰らず、駅前の「麻雀荘 天和」に直行する日々。受験勉強? それは家でやるはずだった時間に片付けるつもりだったけど、結局は麻雀の点数計算や役の組み合わせを考えることに頭を使ってた。 親に連絡するべきだろうか。でも、なんて言えばいいんだ? 「やっぱり落ちました、すみません」? そんな言葉、口から出せる気がしない。 「……雀荘に行くか」 足が勝手に、いつもの道を歩き始めていた。 *** 「おー、宗一郎じゃねぇか。今日も早いな」 店内に入ると、マスターの塚本さんがにやりと笑った。五十代くらいの、少し腹の出た好々爺といった風貌の男性だ。この店の常連になって一年半。もう顔なじみどころか、俺のことを「若手有望株」なんて呼んでくれてる。 「あぁ、マスター。今日は用事が早く終わってさ」 受験に落ちたこと、言わなかった。ちょっと恥ずかしかったからだ。だって、高校卒業後の進路について聞かれたとき、「いい大学行って、ちゃんとした会社に就職するんだ」なんて言っちゃったし。 「おう、来たか! 今日こそは俺が貴様を打ち負かしてくれる!」 一番奥の卓から、デカい声が響いた。週末の常連、「暴れん坊」の愛称で呼ばれる中村さんだ。会社員らしいけど、やたらと熱くなるタイプ。対局中の掛け声も半端なく、店内の空気を一変させる特技の持ち主。 「中村さん、まだ仕事終わってないんじゃないの?」 「今日は半休だ! 麻雀のためならば仕事も投げ捨てる! それが漢ってもんだろ!」 はいはい、そうですか。どう考えても不健全な生き方だけど、俺が言える立場じゃないんだよな。だって俺、受験勉強より麻雀を選んだ結果、大学に落ちたんだから。 「じゃあ、一卓お願いします」 マスターに卓代を払って、席に着く。すでに二人の常連が座っていて、俺で三人目。あともう一人来れば卓が埋まる。 「よろしく」 簡単に挨拶を交わし、俺たちは牌を並べ始めた。カチャカチャという音。この音が好きだった。勉強してる時も、この音が頭の中で鳴り響いてた。微妙な重みと、指に伝わる感触。ああ、ここが俺の居場所だったんだよな。 学校じゃなくて。家でもなくて。この卓の上が。 *** 「リーチ、一発、ドラドラで跳満!」 中村さんの高笑いが店内に響き渡る。大きな手で牌をバァンと倒す音がダイナミックだ。 「うわー、またやられた」 対面の梅野さんが肩を落とす。四十代くらいの、いかにも公務員といった風情の男性だ。 いつの間にか四人目の客も来て、もう二局目が終わろうとしていた。 俺はというと、トップを取ったり、親を続けたりしていたのに、なぜかいまいち熱が入らない。昔なら、絶対こんなことはなかった。牌を握る指には力が入らず、勝っても「ああ、勝ったか」程度の感想しか浮かばない。 「宗一郎、最近冴えないな。受験の結果でも気にしてんのか?」 マスターが通りがけに声をかけてきた。鋭いなぁ、さすが人の表情を見るプロだ。 「まあ、そんなとこです」 曖昧に答えると、中村さんが大きな声で割り込んできた。 「なんだ、不合格だったのか?」 思わず顔が熱くなる。言いたくなかったわけじゃないけど、こうやって大声で言われると少し恥ずかしい。 「あー、まあ……そうなりました」 「そりゃあな! 毎日雀荘に来てちゃ受かるわけねぇだろ!」 中村さんの言葉に、なぜか笑みがこぼれた。その通りだ。自分でもわかってた。 「他にも受けてるとこあるの?」と梅野さんが優しく尋ねてくる。 「いや、滑り止めも受かんなかったんで……もうダメっすね」 雀卓の空気が少し重くなる。でも、俺自身はそれほど落ち込んでいなかった。むしろ、スッキリした感じさえあった。 「まぁ、来年また挑戦するか、専門学校でも考えるか……」 少し考え込むふりをしたけど、実はもう諦めていた。心のどこかで、俺の青春は麻雀に捧げたものだってわかってた。そして、それは取り返せない。 「よし! 次局、俺の親だ! 宗一郎、お前にトドメを刺してやる!」 中村さんの声で雀卓に活気が戻る。さすがだな、この人は。 *** 三局目、俺は一度も和了れないまま、オーラス親番を迎えていた。 「ツモ!」 中村さんが声を張り上げる。またしても彼の和了だ。この人、今日は調子がいいな。 「はいはい、降参ですよ」と苦笑いを浮かべながら、俺は点棒を払った。 「宗一郎、以前だったらこんな負け方せんかったぞ?」 マスターが横から声をかけてくる。 「そうですかね?」 「あぁ、昔のお前なら悔しがったな。何が足りなかったか、どう打てば良かったか、一人で考え込んでたもんだ」 そうだったな、確かに。一年前の俺は負けるたびに悔しがって、次は勝つぞって燃えてた。麻雀の本を読み漁って、プロの戦術を研究して、卓に戻ってきた。 (……俺、もう勝ちたいとも思わなくなってたのか) なんだか虚しい気持ちになる。受験に失敗したことより、この感覚の方がずっと寂しかった。 ...

2025-03-27 00:00 · 折口詠人

第2話「転生、そして戦乱の世界へ」

真っ白な空間。 そんな言葉でしか表現できない場所で、俺は目を覚ました。床も天井も壁もない。ただ、白い何かに包まれている感覚。 「ここは……どこだ?」 声を出したつもりだけど、自分の声が聞こえない。耳がおかしいのか、それとも声が出ていないのか。わからない。 最後に覚えているのは、交差点でトラックに跳ねられたこと。痛みはなかった気がする。一瞬の出来事だった。ってことは、これが死後の世界ってやつなのか? 「天国? 地獄?」 どちらにしても、神様とか閻魔様とかが出てきて審判するんじゃないのか? そんな漫画や小説でよくあるパターンを期待してみたけど、結局誰も出てこなかった。 (まぁ、麻雀に青春捧げて大学落ちた程度じゃ、神様も相手にしてくれないか) なんて自嘲していると、ぼんやりとした映像が浮かんできた。まるで古いテレビの砂嵐がだんだんクリアになってくるような感じで。 映像の中の俺は赤ん坊になっていた。どうやら、これが異世界転生ってやつらしい。転生先は「フェルトリア王国」という国の辺境地域。亡くなった親戚の子を引き取ったという設定で、地方貴族のエストガード家の養子になるらしい。 (おい、これ完全に漫画の設定じゃねえか……) でもまあ、大学落ちて行き場のなかった俺には、これはこれでありがたい話なのかもしれない。 「折角だし、今度は真面目にやってみっか」 白い空間の中で、そう決意した。 *** 「ソウイチロウ! 起きなさい、もう朝よ!」 厚手のカーテンが勢いよく開けられ、まぶしい光が部屋に差し込んできた。木のベッドの上で、俺は顔をしかめながら目を開ける。 「んー……わかったよ、起きる……」 ベッドから這い出るようにして体を起こす。窓際には女性が立っている。エストガード家の使用人、ミーナだ。四十代くらいの、いかにも母親然とした雰囲気の女性。俺が物心ついた頃からずっと世話をしてくれている。 「今日は何の日か覚えてる?」 ミーナが期待を込めた笑顔を向けてくる。 「え? ああ、そうか……俺の15歳の誕生日か」 「そうよ! おめでとう、ソウイチロウ。貴族の子どもとしては、今日から一人前として扱われる大切な日なのよ」 ミーナは嬉しそうに話しながら、用意しておいた服を取り出し始めた。 俺の名前はソウイチロウ・エストガード。まぁ、前世の三崎宗一郎をそのまま持ってきた感じだけど。 そう、実は今日まで、前世の記憶は断片的にしか思い出せなかった。でも、伝説によれば15歳の誕生日に全ての記憶が戻ってくるとか何とか……って言われていた気がする。 そして、起きたばかりの今、すべての記憶が鮮明に甦っていることに気づいた。受験に失敗したこと、麻雀に明け暮れた日々、そして交通事故で死んだこと。すべてが、まるで昨日のことのように思い出せる。 「ありがとう、ミーナ」 着替えながら考える。15年間、この世界で生きてきて、俺は前世と同じく、あまり目立たない子だった。養子だからという理由もあるけど、それ以上に、何をやってもあまり上手くいかない。武芸も学問も中の下くらい。取り柄と言えば、まじめに努力することくらい。 (情けねぇな、二度目の人生でも平凡かよ) でも、そんな自分を受け入れてくれるのがエストガード家の良いところだ。特に義兄のハーバートは、俺にはいつも優しかった。 「ソウイチロウ! 早く食堂に来なさい。みんな待ってるわよ」 ミーナの声で我に返る。急いで支度して、食堂へと向かった。 *** エストガード家の食堂は、それほど豪華ではないけれど、居心地のいい場所だった。テーブルの上には焼きたてのパンや蜂蜜、チーズなどが並んでいる。家長である義父のグレン、義母のリアーナ、そして義兄のハーバートがすでに席についていた。 「おはよう、ソウイチロウ。誕生日おめでとう」 義父のグレンが穏やかな笑顔で言った。50代半ばくらいの、髭の似合う男性だ。 「ありがとうございます、父上」 少し緊張した面持ちで席に着く。 「15歳か……もう立派な青年だな」 義兄のハーバートが言った。22歳の彼は、将来この家を継ぐ人物だ。容姿端麗で、剣術も学問も優れた、まさに理想的な貴族の息子。 「ハーバートほどじゃないですけどね」 自嘲気味に言うと、ハーバートは笑いながら首を横に振った。 「比べることはないさ。それに、今日はお前の日だ。さあ、これを開けてみろ」 テーブルの下から、長方形の箱を取り出して渡してくれた。丁寧に包装された贈り物だ。 「これは……」 開けてみると、中には上質な革で作られた手帳と、美しい装飾が施された羽ペンのセットが入っていた。 「お前、日記をつけるのが好きだったろう? 使ってくれたら嬉しい」 幼い頃から、俺は日記をつける習慣があった。それは前世の趣味ではなく、この世界で生まれてから自然と身についたものだった。何をやっても人より劣る自分を客観的に見つめる方法だったのかもしれない。 「ありがとう、兄さん」 本当に嬉しかった。こんな家族に恵まれて、俺は幸せ者だ。 *** 昼過ぎ、俺は領地の訓練場にいた。貴族の子供たちは、15歳になると基本的な武芸の訓練を受ける。剣術、弓術、馬術などだ。今日は俺の初めての訓練日だった。 「ハァッ!」 木剣を振り上げて、前に踏み出す。しかし、足がもつれて派手に転倒。地面に顔から突っ込んだ。 「プッ、ハハハ! 見ろよ、養子のソウイチロウがまた転んだぞ!」 周りから笑い声が起こる。訓練場には近隣の貴族の子息たちも集まっていて、中にはエストガード家の養子である俺を快く思っていない連中もいる。 「大丈夫か、ソウイチロウ?」 訓練指導役の老騎士、バルトが手を差し伸べてくれた。 「はい……大丈夫です」 埃を払いながら立ち上がる。今日に限った話じゃない。これまで何度か剣の稽古をつけてもらったことはあったけど、毎回こんな調子だった。剣は重いし、動きは鈍いし、センスがないってことだけはよくわかる。 「まあ、初日だ。気にするな」 ...

2025-03-27 00:00 · 折口詠人

第3話「タロカという遊戯」

「誕生日パーティーなんて、いいですよ……」 俺の言葉を、義母のリアーナは笑顔で制した。 「そういうわけにはいかないわ。貴族の子どもの15歳の誕生日は社交界デビューの日よ。近隣の貴族たちもみんな来るわ」 エストガード家の居間で、俺は義母に説得されていた。誕生日から3日後、正式な祝賀パーティーを開くという。前世では、誕生日なんて家族で食事する程度だったのに、こっちの世界の貴族社会は面倒くさい。 「でも僕なんかのために……」 「ソウイチロウ、あなたはこの家の一員よ。養子だからといって、遠慮する必要はないわ」 リアーナの優しい言葉に、どうにも反論できない。この家の人たちは俺に本当に優しい。 「……わかりました」 「よろしい。それなら、明日は仕立て屋にも来てもらうから、新しい正装も作りましょう」 義母はそう言って、部屋を出て行った。残された俺は、窓の外を眺めながら溜息をついた。 「やれやれ……」 麻雀やるよりはマシか。そう自分を励ましながら、これから始まる社交界デビューという名の戦場に、内心ビクビクしていた。 *** エストガード家の大広間には、近隣の領主や貴族たちが集まっていた。シャンデリアの明かりが華やかに照らし出す中、正装姿の人々が歓談している。俺もこの日のために作った、緑と金の刺繍が入った正装を身につけていた。少しきつくて息苦しいけど、まあ様になっているはずだ。 「ソウイチロウ、こっちよ」 ハーバートが俺を呼んだ。彼の隣には同年代の青年たちが数人立っていた。 「皆に紹介するよ。こちらがソウイチロウ・エストガード、俺の弟だ」 弟、と紹介されて少し照れる。そして、集まっていた青年たちと順に挨拶を交わした。ヴェルナー子爵家の長男レオン、バーンハルト伯爵家の次男フェリックス、そしてアーデン辺境伯の娘セリア。全員が俺と同じくらいの年齢だった。 「エストガード家の養子と聞いていたよ」 レオンが少し傲慢な調子で言った。その目には、軽い侮蔑の色が見える。ああ、こういうタイプね。前世の高校でもいたよ、生まれだけで人を判断するタイプ。 「そうですね。でも、兄上や父上、母上には恵まれてます」 柔らかく返しつつも、負けない目で見返す。レオンは軽く鼻を鳴らし、視線を逸らした。 「あら、早速喧嘩かしら?」 セリアが割って入ってきた。青いドレスに身を包んだ彼女は、俺と同じくらいの背丈で、銀色がかった金髪が特徴的だ。 「喧嘩じゃないさ、ちょっとした挨拶だ」 フェリックスが和やかに言った。彼は背が高く、赤みがかった茶色の髪をしている。三人の中では一番友好的な印象だ。 「そうだな、それより何か楽しいことをしようぜ」 ハーバートが場の空気を和らげようとした。さすが兄貴、気が利くな。 「賭け事はどう?」レオンが提案した。 「わっ、早速悪い話を始めるな」ハーバートは呆れたように言った。 「いいじゃないか。少額の賭けなら大した問題じゃない」レオンは意に介さないようだ。 「何をするの?」セリアが尋ねた。 「タロカはどうだ?」フェリックスが提案した。 「タロカ?」 俺は初めて聞く言葉に首を傾げた。 「ああ、ソウイチロウはタロカを知らないのか」ハーバートが気づいた様子で言う。 「エストガード領ではあまり流行ってないからな」フェリックスが説明してくれた。「王都発祥の賭け遊戯さ。カードというか、板札を使って遊ぶんだ」 「教えてあげる?」セリアが俺に微笑みかけた。 「え、はい……お願いします」 少し恥ずかしいけど、興味はある。賭け事といえば、前世では麻雀がメインだったからな。 *** 大広間の隅に設けられた小さな卓を囲んで、俺たちは座った。フェリックスがポケットから四角い木箱を取り出し、中から彩色された細長い板札を取り出していく。 「これがタロカ牌だ」 一枚一枚を丁寧に並べていく。札には様々な絵柄が描かれている。数字札、花札、特殊札の3種類があるらしい。 「基本的なルールを説明するね」 セリアが始めた説明は、驚くほど麻雀に似ていた。手持ちの牌を組み合わせて役を作り、先に完成させた人が勝ち。途中で牌を交換したり、場に捨てたり、他のプレイヤーの捨て牌を奪ったりできる。 「なるほど……」 俺は説明を聞きながら、頭の中でルールを整理していった。麻雀と違う部分もあるけど、根本的な発想は近い。手牌の組み合わせ、捨て牌からの読み、場の流れを掴む感覚。 「では、実際に一局やってみようか」 フェリックスが牌を混ぜ始めた。 「掛け金は一人5銀貨でいいか?」レオンが提案した。5銀貨というと、この世界ではそこそこの額だ。労働者の一日分の賃金くらい。 「高すぎないか?」ハーバートが心配そうに言った。「ソウイチロウは初めてだし」 「いいですよ、兄さん」俺は自信を持って言った。「やってみます」 前世での麻雀経験が役に立つかもしれない。それに、何より久しぶりにゲームをする高揚感があった。 「じゃあ、配るぞ」 フェリックスが手早く牌を配り始めた。各プレーヤーに10枚ずつ配られ、残りは山札として中央に置かれる。 *** 「お、いい手が来たな」 レオンが自分の牌を見て、小さく笑った。フェリックスとセリアも表情を変えず、牌を整理している。ハーバートはといえば、少し困ったような顔をしていた。 俺は配られた10枚の牌を見た。 (数字の3、4、5……花の「月」と「星」……特殊札の「騎士」か) 牌の種類と組み合わせを頭の中で整理する。麻雀のように、数字札を同種で並べたり、連番で並べたりする役があるらしい。花札は同種を集めると高得点になる。 「さあ、始めよう」 フェリックスの合図で、ゲームが始まった。最初のプレイヤーであるレオンが山札から1枚引き、手持ちの中から1枚を場に捨てた。 「「槍」を捨てる」 時計回りに順番が進み、セリア、フェリックス、ハーバート、そして俺の番。俺は山札から1枚引いた。 「数字の6か……」 手持ちを見ると、数字の3、4、5があった。これで3、4、5、6と連番が作れる。 (これは……連番役の「小進行」になるな) 捨てるのは「騎士」にしよう。まだ役割がわからないし、他の組み合わせを優先したい。 ...

2025-03-27 00:00 · 折口詠人

第4話「将軍との一局」

「アルヴェン将軍が、また来られるそうよ」 朝食の席で、義母のリアーナが言った。誕生日パーティーから一週間が経っていた。 「将軍がですか?」 俺は驚いて顔を上げた。あの日以来、あのタロカの勝負のことを考えない日はなかった。でも、まさか本当に将軍が再訪してくるとは。 「そうだ」義父のグレンが頷いた。「どうやら、お前に会いたいとのことだ」 テーブルの向かいに座っていたハーバートが、口元に笑みを浮かべた。 「ほら見ろ、言った通りだろう。将軍がソウイチロウに興味を持ったんだよ」 「でも、なぜ僕なんかに……」 「謙遜することはないわ」リアーナが優しく言った。「あなたのタロカの腕前は、パーティーの話題になったのよ。特に、相手の手を読む力が素晴らしいって」 俺は照れくさくなって、パンをちぎりながら黙り込んだ。前世の麻雀の経験があるとはいえ、たった一度のゲームでそこまで評価されるとは思わなかった。 「将軍は午後に来られるそうだから、ちゃんと正装しておくのよ」 「はい、わかりました」 朝食を終えた後、俺は自室に戻り、新しく作った緑色の正装を出した。前のよりも少し慣れて、着心地も良くなっている。 (アルヴェン将軍か……一体何の話をするんだろう) 窓の外を眺めながら、俺は考え込んだ。 *** 「ようこそ、将軍」 エストガード家の応接間で、グレンはアルヴェン将軍を迎えた。灰色の髪に整えられた髭、堂々とした体格の男性だ。五十代半ばくらいだろうか。軍服の胸には数々の勲章が輝いている。 「グレン、久しぶりだな」 二人は昔からの知り合いらしく、親しげに挨拶を交わした。 「こちらが私の次男、ソウイチロウだ」 グレンに促され、俺は一歩前に出て丁寧にお辞儀をした。 「ソウイチロウ・エストガード、お目にかかれて光栄です」 「これは立派な青年だ」将軍は満足げに頷いた。「前回はパーティーの喧騒でゆっくり話せなかったが、今日はじっくりと話をしたい」 「どうぞ、こちらにお掛けください」 リアーナが応接間の椅子を勧めた。紅茶とお菓子が用意され、家族と将軍が席に着く。俺も促されるまま、将軍の向かいの席に座った。 「それで、ソウイチロウ」将軍が俺に向き直った。「君のタロカの腕前について、もう少し知りたいと思っている」 「はい……」 俺は緊張しながらも、素直に答えることにした。 「実は、あれが初めてだったんです」 「初めて?」将軍の眉が上がった。「あの読みが初めてのゲームでできるものだとは思えないが」 「まあ、似たような……」 言いかけて、ハッとした。前世の麻雀の話はできない。 「似たような?」 「いえ、なんとなく感覚が掴めたというか……」 将軍はしばらく俺を見つめていたが、やがて納得したように頷いた。 「才能というものは、時に理屈では説明できないものだ。私も若い頃、初めて馬に乗った時に『乗り方を本能的に理解した』と言われたことがある」 「そう、そうなんです」 俺は安堵の息を吐いた。 「それで、将軍は何故僕に興味を?」 「率直に言おう」将軍はカップを置き、真剣な表情になった。「我々の国は今、非常に危険な状況にある。エストレナ帝国の脅威は日に日に増しており、優秀な戦術家を必要としている」 「戦術家……」 「そうだ。君のような読みの才能を持つ者は、戦場で大いに活躍できるだろう」 俺は黙って聞いていた。前世では麻雀の才能すら活かせなかった。それが、この世界では国の命運を握る重要な能力になるかもしれないというのだ。 「とはいえ、一度のゲームだけでは判断できない。もう一度、タロカの対局をしてみないか? 今度は私と」 「えっ、将軍とですか?」 思わず声が上ずった。北方軍の総司令官とゲームをするなんて。 「ご心配なく」将軍は笑った。「私もタロカは大好きなんでね。王都の大会で優勝したこともあるんだ」 それはますます緊張する。素人の俺が相手をするなんて、分不相応だろう。 「あの、私なんかでよろしいのでしょうか……」 「遠慮することはない。君の才能を確かめたいんだ」 グレンとリアーナも励ますように頷き、ハーバートは親指を立てて応援してくれた。 「……わかりました。やらせていただきます」 将軍は満足げに頷くと、懐からタロカの牌が入った箱を取り出した。 「では、始めよう」 *** テーブルの上に、美しい彫刻が施されたタロカ牌が並べられた。前回のものよりも高級感があり、牌の動きもスムーズだ。 「これは王室特製のタロカ牌だ。私の宝物の一つさ」 将軍は牌を丁寧に混ぜながら説明した。 「では、配るぞ」 10枚の牌が俺の前に整然と並べられた。将軍も同じく10枚を手にする。前回と違い、今回は二人での対局だ。 俺は配られた牌を見た。 (数字の2、3、9……花の「月」「雨」「星」……特殊札の「魔術師」「戦士」……う~ん、バラバラだな) 前回ほど良い手ではない。でも、数字の2と3が来ているので、これを伸ばせば「小進行」が狙える。花札も3枚あるので「天体の調和」が狙えるかもしれない。 「若い者が先だ」 将軍の言葉に、俺は頷いて山札から1枚引いた。「数字の4」だ。これは良い。2、3、4と連番になった。 「数字の9を捨てます」 連番と関係ない9を捨てる。将軍は少し考えてから、山札から1枚引き、「花の太陽」を捨てた。 (花札は集めていないのかな?) ...

2025-03-27 00:00 · 折口詠人

第5話「軍に拾われた少年」

「え……!? ソウイチロウが軍に?」 朝食のテーブルで、ハーバートは驚きの声を上げた。アルヴェン将軍の訪問から3日後、王都からの使者が届けた書状が読み上げられていた。 「そうだ」義父のグレンは厳かな面持ちで頷いた。「王命により、ソウイチロウは北方軍の補佐官見習いに任命された」 テーブルに沈黙が落ちる。俺は自分の耳を疑った。王命? つまり国王陛下の命令で俺が軍に入るというのか? 一度のタロカ対局で、そこまでの話になるとは思ってもみなかった。 「具体的には、どういう……?」 言葉を選びながら尋ねる俺に、義母のリアーナが答えた。 「来週から北方軍総司令部に勤務することになるそうよ。アルヴェン将軍の直属の補佐官見習いとして」 「こんなに急に決まるものなのか?」ハーバートが首を傾げた。 「それだけ、切迫した状況なのだろう」グレンは重々しく言った。「エストレナ帝国との緊張は高まる一方だ。おそらく将軍は、ソウイチロウの才能を一刻も早く活用したいのだろう」 リアーナの目には明らかな心配の色が浮かんでいる。「でも、まだ15歳なのに……」 「戦場には行かせない、と約束してくれたそうだ」グレンがリアーナの手を優しく握った。「少なくとも当面は、司令部での参謀業務が中心になるとのことだ」 ハーバートが俺に向き直った。「どうだ、ソウイチロウ。正直な気持ちは?」 みんなの視線が俺に集まる。胸の内は複雑だった。前世では大学に落ちてしまった駄目な高校生。この世界でも、剣も振れない、魔法も使えない、取り柄のない貴族の養子。それが突然、国の命運を左右するかもしれない重要なポジションに抜擢されるとは。 「正直、不安はあります」 率直に答えた。 「でも……自分にできることがあるなら、やってみたいです」 「そうか」グレンは深く頷いた。「エストガード家の一員として、王国に貢献することは誇りだ。だが、無理はするな。何かあれば、いつでも家に戻っておいで」 「ありがとう、父上」 「わたしは……」リアーナは言葉に詰まったが、すぐに微笑んだ。「あなたを信じているわ。でも、しっかり食事をして、体を大事にするのよ」 「はい、母上」 「ふう、まさか弟が先に軍に入るとはな」ハーバートは苦笑した。「負けてられないな。俺も近々、騎士団の選抜試験を受けるつもりだ」 「兄さんも?」 「ああ。この状況では、エストガード家からも誰かが国に仕えるべきだろう」 家族の誇らしげな表情を見て、俺は深く決意を固めた。前世での失敗を繰り返さない。自分の才能を、今度こそ活かす道を見つけた。 *** 「えっと……ここが北方軍総司令部?」 俺は馬車から降り、目の前の巨大な建物を見上げた。灰色の石造りの要塞のような建物で、フェルトリア王国北方軍の軍旗がはためいている。 「ソウイチロウ様、こちらへどうぞ」 出迎えの兵士に導かれ、俺は緊張しながら建物の中へと足を踏み入れた。正装に身を包み、エストガード家から持ってきた荷物は最小限だ。当面はここで寝泊まりすることになるという。 「将軍がお待ちです」 長い廊下を歩いていくと、途中ですれ違う兵士や士官たちの視線を感じた。好奇の目もあれば、明らかに冷ややかな目もある。 (俺のことを噂してるんだな……) 15歳の少年が補佐官見習いになるというのは、よほど異例なことらしい。耳に入ってくる囁きが、そのことを物語っていた。 「あれが噂の坊ちゃんか?」 「将軍のお気に入りらしいぜ」 「何の経験もない子供が、何をできるっていうんだ」 小さな声で交わされる会話に、俺は肩身の狭い思いをした。まあ、仕方ない。実績もないのに、いきなりこんな立場になったんだから。 (まただな、居場所のない感じ) 前世の高校でも、麻雀にのめり込んでいた俺は少し浮いた存在だった。この世界でも、どうやら最初から孤立しそうだ。 「ここです」 兵士が大きな扉の前で立ち止まり、ノックをした。 「どうぞ」 中から将軍の声がして、扉が開けられた。 *** 「やあ、来たか! ソウイチロウ」 アルヴェン将軍は大きな書斎のような部屋で、俺を迎えた。壁には地図がいくつも貼られ、机の上には書類や模型が散らばっている。 「将軍、ご指名いただき光栄です」 緊張しながらも、礼儀正しく挨拶をする。 「堅苦しくするな」将軍は笑った。「これからは毎日顔を合わせるのだからな」 「はい……」 「さて、早速だが仕事の説明をしよう」 将軍は机の上の地図を指差した。 「これがフェルトリア王国とエストレナ帝国の国境地帯だ。現在、ここで小競り合いが続いている」 複雑な地形が描かれた地図を眺める。山岳地帯や河川、森林など、様々な地形が入り組んでいる。 「お前の仕事は、まず情報の整理と分析だ。敵の動きを読み、次の手を予測する。タロカで見せた才能を、ここで発揮してほしい」 「はい、がんばります」 「最初は見習いとして、先輩の補佐官たちと一緒に仕事をするといい。ここが私の副官、ドーソン少佐だ」 部屋の隅で黙って立っていた中年の男性が一歩前に出た。厳格な表情の、筋肉質な男性だ。 「ドーソンです。よろしく頼む」 微妙に冷たい口調に、この人も俺の抜擢に納得していないんだろうなと感じた。 「よろしくお願いします」 丁寧に頭を下げると、ドーソンは形式的に頷いただけだった。 「それから、こちらは作戦参謀のセリシア・ヴェル=ライン少尉だ」 ドアから入ってきたのは、誕生日パーティーで会った金髪の少女だった。 「セリア……じゃなくて、セリシアさん?」 思わず素の反応をしてしまった。彼女は少し驚いた表情になった。 ...

2025-03-27 00:00 · 折口詠人

第6話「軍の空気は冷たい」

「ソウイチロウ見習い補佐官!」 執務室のドアが勢いよく開き、ドーソン少佐が現れた。俺は慌てて立ち上がる。 「はっ!」 とりあえず敬礼のマネをしてみたが、どうやら形が違ったらしい。ドーソン少佐は眉をひそめた。 「敬礼の仕方も知らないのか。まったく……」 北方軍総司令部での勤務が始まって3日目。相変わらず、少佐は俺に対して冷たい態度を崩さなかった。 「すみません。これから覚えます」 「今日は書庫の整理を手伝え。それから将軍への朝の報告書を配達しろ」 「はい、少佐」 少佐は書類の束を机に置くと、ため息をついて部屋を出て行った。 (雑用係か……まあ、しょうがないか) 俺は諦めの心境で書類を整理し始めた。期待していた「戦術家としての第一歩」なんて夢のまた夢。ここ数日は雑用ばかりで、とても補佐官見習いという仕事には思えない。 午前中いっぱいを書庫の整理に費やした後、昼食のために食堂に向かう。廊下で、若い士官たちがこちらを見て小声で話しているのが聞こえた。 「あれが噂の"坊ちゃん補佐官"か?」 「将軍のお気に入りらしいな」 「何も知らない子供に何ができるっていうんだ」 「親の七光りだろ」 (七光りじゃないんだけどな……) 心の中でつぶやきながらも、表面上は気にしていない素振りで歩き続ける。これも3日目にして慣れてきた光景だ。 食堂では、相変わらず一人で食事を取ることになった。クラウスおじさんは今日は別の任務で外出中らしい。テーブルの端に座り、スープとパンを黙々と食べる。 「隣、いいかな?」 突然声がかかり、顔を上げるとセリシアが立っていた。軍服姿の彼女は、相変わらず凛々しい。 「どうぞ」 彼女は俺の向かいに座り、トレイを置いた。周囲から視線が集まるのを感じる。セリシア少尉が「坊ちゃん補佐官」と一緒に食事をするなんて、珍しい光景なのだろう。 「調子はどう?」 「まあ、順応してるところかな」 セリシアはスープをすすりながら、小声で言った。 「みんな最初は敵意を向けるものよ。気にしないこと」 「ああ……気づいてた?」 「見ればわかるわ」彼女は冷静に答えた。「でも、将軍があなたを選んだのには理由がある。あなた自身が証明すればいいだけよ」 「そう簡単にいくかな……」 「……明日、戦術会議があるわ。あなたも参加することになってる」 「え? 本当に?」 「ええ。第一歩のチャンスよ。準備しておきなさい」 セリシアは食事を終えると、さっと立ち上がった。 「頑張りなさい、ソウイチロウ」 そう言って彼女は去っていった。残された俺は、少し心が軽くなった気がした。 *** 午後、司令部の廊下を行き来しながら、俺は伝令業務をこなしていた。書類を届けたり、口頭での伝言を運んだり。シンプルな仕事だが、面白いことに気づいた。 (あれ? この伝令のルート、何か法則性があるな) 何度も同じ場所を行き来していると、情報の流れが見えてきた。誰から誰へ、どんな内容が、どのタイミングで伝わるのか。 「これって……麻雀の"河"を読むのと似てるな」 前世で麻雀をやっていた時、他のプレイヤーの捨て牌(河)から手の内を読むのが得意だった。この伝令ルートも、情報の流れという点では似ている。 「なるほど……だからこの時間には補給部からの報告が来て、次に情報部へ行くのか」 頭の中で情報の流れを整理していくと、軍の組織がどう動いているのか、少しずつ見えてきた。誰が重要な情報を持っていて、誰がそれを必要としているのか。命令はどこから発せられ、どのように伝達されるのか。 「面白いな……」 夕方になり、将軍への最後の報告書を届けた後、執務室に戻る。そこでセリシアと鉢合わせた。 「何をしていたの?」 「伝令業務」 「伝令? それだけ?」 「うん……でも、面白いことに気づいたんだ」 セリシアは首を傾げた。 「何に?」 「情報の流れにパターンがあるんだ。例えば、北部国境の報告は常に午前中に来て、そこから30分以内に参謀本部と補給部に伝わる。でも先に参謀本部に行くと、その後の動きが変わるんだ」 彼女は驚いたような表情になった。 「ほかにも、ハーゲン大佐からの伝令は必ずバッカス中佐を経由して参謀部に伝わるけど、バッカス中佐がいないときは直接ドーソン少佐に行く」 「あなた……たった3日でそんなことまで観察していたの?」 「まあ、何度も行き来してるうちに気になったから」 セリシアは少し考え込むように俺を見た。 「それを紙に書き出してみて」 「いいよ」 執務室の机に向かい、俺は頭の中にある情報の流れを図式化していった。線と矢印で繋がれた複雑な図が完成する。 「こんな感じかな」 セリシアは黙って図を見つめた。 「これは……情報伝達図?」 「うん。伝令ルートだけじゃなくて、時間帯や優先順位、内容によって変わる流れも入れてみた」 「こんな風に整理できるなんて……」 ...

2025-03-27 00:00 · 折口詠人

第7話「才女参謀との出会い」

「情報分析の基本はね、点と点を繋げることよ」 セリシアは机の上に広げた地図を指しながら説明していた。北方軍総司令部での勤務が始まって1週間が経ち、俺はようやく本格的な任務に取り組み始めていた。 「例えば、ここで敵の偵察部隊が目撃されて、同じ日にここで補給車列が増えている。この二つの情報からは何が読み取れる?」 彼女の鋭い眼差しが俺に向けられる。セリシア・ヴェル=ライン少尉。15歳の俺と同年代なのに、すでに参謀として確固たる地位を築いている才女だ。初日の緊張感こそ解けたものの、彼女の厳しい指導は変わらない。 「えっと……この地点に兵力を集めようとしてるってことかな」 「そう。基本的には合っているわ」 彼女は満足げに頷いた。小さな褒め言葉にほっとする。 「でも、それだけじゃ不十分」 やっぱり褒めてくれないか。内心で苦笑しながら、彼女の続きを聞く。 「可能性は複数考えるべきよ。例えば、本当の目標はここじゃなくて、偵察はわざと目立つように行動して、我々の注意を引くための囮かもしれない」 「なるほど……」 「常に複数の可能性を検討し、確率の高いものから優先順位をつける。これが戦術分析の基本よ」 セリシアの論理的な思考には感心する。頭の回転が速くて、筋道立てて考える能力が半端じゃない。 「わかった。複数の可能性か……」 「ソウイチロウ、あなたは『読み』が得意なんでしょう? それを戦術に活かすのよ」 「読みか……」 麻雀で培った読みの感覚。相手の捨て牌から手の内を推測し、次の一手を予測する。確かに似ているかもしれない。 「試しにこの状況を分析してみて」 セリシアは別の地図を広げた。北部国境に近い山岳地帯の図だ。そこには敵軍の動きを示す赤い印がいくつか付けられている。 「ここ1週間のエストレナ帝国軍の動きよ。何か気づく?」 俺は地図を食い入るように見つめた。山と谷、小さな村々、そして赤い印。頭の中でそれらを繋げていく。麻雀の卓を前にした時のように、パターンを探す。 「ここに集中してるけど……わざとらしくない?」 セリシアの眉が少し上がった。 「どういう意味?」 「だって、ここまで露骨に同じ場所に集まったら、こっちに警戒されるのは明らかじゃない? わざと見せてるように思える」 「そう考えるのね……」 彼女は腕を組んで考え込んだ。 「他には?」 「え? それだけじゃダメ?」 「もっと論理的に説明して」 彼女の厳しい目に、少し焦る。 「うーん……」 地図をもう一度よく見ると、別のパターンに気づいた。 「あ、これ見て。偵察部隊の動きが、一定のリズムを持ってる。3日おきに同じルートを通ってる。これは習慣化された行動パターンだよ。本当の作戦なら、もっと不規則にするはず」 セリシアの表情が少し変わった。 「なるほど……確かにそうね」 彼女は少し感心したような顔をしている。小さな勝利感に、内心でガッツポーズ。 「じゃあ、本当の目的は何だと思う?」 「それは……」 俺は地図をもう一度見直した。偵察部隊の動きが目立つ一方で、他の場所では何が起きているのか? 「ここだ」 俺は地図の別の場所を指した。小さな峠道のある場所だ。 「ここは一見何もないように見えるけど、実はこの谷を通れば、我々の補給路に最短で出られる。敵は他の場所で目立つ動きをして、実はこっちに少数精鋭を送り込もうとしてるんじゃないかな」 セリシアは黙って俺の分析を聞いていた。そして、ゆっくりと頷いた。 「面白い視点ね……今日の戦術会議で、その意見を言ってみたら?」 「え? 今日、戦術会議があるの?」 「ええ、午後からよ。将軍も参加する重要な会議」 緊張感が湧き上がってくる。まだ軍に来て1週間の新人が、重要な会議で発言なんて……。 「大丈夫かな……」 「自信を持って。あなたの『読み』は独特だから」 セリシアの言葉に少し勇気づけられた。彼女は厳しいけど、ちゃんと俺の才能を認めてくれている。そう思うと、少し嬉しかった。 *** 戦術会議の大きな会議室に、軍の高官たちが集まっていた。細かな軍服の違いで階級がわかるようになってきたけど、まだ全員の顔と名前は一致しない。ドーソン少佐やセリシア以外は、まだ距離感がある。 「では会議を始める」 アルヴェン将軍の一声で、会議室が静まり返った。 「今日の議題は北部国境の防衛計画だ。エストレナ帝国軍の動きが活発化しており、我々の対応を決める必要がある」 将軍は地図を指しながら説明を続けた。まさにセリシアと見ていた地図と同じ地域だ。 「現在、帝国軍は主にこの地域で活動している」 将軍が指したのは、俺たちが先ほど分析した地域だった。どうやらこれは実際の作戦会議だったんだな。さっきはセリシアに試されていたんだ。 「この状況について、セリシア少尉、見解を述べよ」 「はっ!」 セリシアが立ち上がり、敬礼した。 「私の分析では、帝国軍は明らかにこの山岳地帯での正面攻撃を準備しています。偵察部隊の動き、補給線の強化、さらには密偵から得た情報を総合すると、2週間以内に大規模な攻撃が予想されます」 彼女の声は落ち着いていて、論理的だ。周囲の士官たちも頷いている。 「対策としては、この三つの峠にそれぞれ一個中隊を配置し、予備隊を後方に置くことを提案します。さらに、偵察隊を増強して……」 セリシアは詳細な防衛計画を説明していった。理論的で隙のない計画に思える。軍事学校首席の実力は伊達じゃない。 ...

2025-03-27 00:00 · 折口詠人

第8話「模擬戦、開戦」

「将軍、セリシア少尉の計画を採用すべきです」 執務室に集まった参謀たちの前で、ドーソン少佐が強く主張していた。昨日の会議から一夜明け、セリシアと俺はそれぞれの作戦計画を提出した。アルヴェン将軍はそれらを並べて眺めている。 「ソウイチロウ見習い補佐官の計画は根拠に乏しく、兵を危険にさらすものです」 ドーソン少佐の視線が俺に向けられる。まるで鋭い刃物のような目だ。動揺しないように、俺は平静を装った。 「セリシア少尉の計画は情報部のデータに基づいており、最も合理的です」 将軍はゆっくりと二つの計画書に目を通している。俺の計画は、敵の偵察隊の動きが囮であるという予測に基づき、小さな峠道に伏兵を配置するというものだ。一方、セリシアの計画は正面防衛を強化するものだった。 「どちらも一理ある」 将軍がようやく口を開いた。 「問題は、どちらが正しいかだ」 「でも、それを知る方法はありません」セリシアが冷静に言った。「帝国軍が実際に動くまでは」 「そうだな……」 将軍はしばらく考え込み、急に顔を上げた。 「モデル演習を行おう」 「モデル演習ですか?」ドーソン少佐が首をかしげた。 「そうだ。セリシアとソウイチロウの計画、どちらが有効か、小規模な実験で確かめよう」 この提案に、部屋の空気が変わった。モデル演習とは、実際の兵を使って模擬戦を行い、作戦の有効性を検証するものだ。実戦規模ではないが、かなり本格的な訓練だという。 「具体的にはどうするんですか?」俺は緊張しながら聞いた。 「小隊規模でいい。ソウイチロウの計画とセリシアの計画、それぞれを実行する防衛側を用意する。そして、別の小隊に帝国軍役をさせる」 「明日にでも実施できます」ドーソン少佐が言った。 「いや、今日だ」 「今日、ですか!?」 将軍は頷いた。 「敵はいつ動くかわからない。早急に方針を決める必要がある」 誰も異議を唱えられなかった。 「では、準備を始めよ。ソウイチロウ、セリシア、それぞれ自分の計画を指揮してくれ」 「えっ、私が?」 思わず声が上ずってしまった。計画を立てるのは一つだけど、実際に兵を指揮するなんて……。 「もちろんだ。自分の計画は自分で証明すべきだろう」 将軍の言葉には反論の余地がなかった。セリシアは冷静に敬礼した。 「了解しました」 俺も慌てて敬礼する。 「が、頑張ります!」 これは思わぬ展開だ。計画が採用されるかどうかだけでなく、自分で指揮も取るなんて。緊張で胃がキリキリしてきた。 *** 「これが今日の演習場となる地域だ」 兵舎の隣にある作戦室で、ドーソン少佐が地図を広げて説明していた。実際の北部国境の地形を模した丘陵地帯が、司令部から数キロ離れたところにあるらしい。 「防衛側は青チームと赤チーム、攻撃側は黄チームとする」 地図には各チームの初期配置が示されていた。青チームはセリシアの計画に基づいて正面防衛を固める。赤チームは俺の計画で、峠道に重点を置く。そして黄チームは仮想敵となる帝国軍だ。 「各チーム20名ずつ、合計60名で行う」 これだけの規模の演習を急に組むなんて、北方軍の機動力は凄まじい。さすが最前線の部隊だ。 「それぞれの指揮官は?」 「青チームはセリシア少尉、赤チームはソウイチロウ見習い補佐官、黄チームはグレイ中尉だ」 グレイ中尉という名前は聞いたことがある。若くして頭角を現した実戦派だとか。なかなかの強敵らしい。 「演習の勝敗基準は?」ドーソン少佐はメモを見ながら続けた。「黄チームが防衛ライン突破に成功すれば攻撃側の勝ち。12時間耐えれば防衛側の勝ちだ」 「12時間ですか!?」 さすがに驚いた声が出た。日が暮れてからも続くのか。 「本物の戦場には時間制限などないぞ」ドーソン少佐は厳しい目で俺を見た。「それが嫌なら、今すぐ辞退しても構わない」 「い、いえ! やります!」 引くわけにはいかない。これは自分の読みを証明するチャンスだ。 「では、各自装備を受け取り、30分後に集合せよ」 「はっ!」 全員が敬礼し、解散した。 *** 「赤チームのみんな、聞いてくれ」 20人の兵士を前に、俺は緊張しながら作戦を説明していた。彼らの表情は様々だ。好奇心に満ちた若い兵士もいれば、明らかに不満そうな年配の兵もいる。「坊ちゃん補佐官」に指揮されることに納得していないのだろう。 「敵は最初、正面から攻めてくるように見せかけて、実は補給路を狙っていると思われる」 地図を指しながら説明を続ける。 「だから、私たちはこの峠道に重点を置く。ここに10名、残りの10名は正面に配置する」 「補佐官、申し訳ありませんが」中年の下士官が手を挙げた。「グレイ中尉は狡猾な戦術家です。本当に峠を狙うと思いますか?」 「ああ、そう思う」 俺は自信を持って答えた。 「敵の立場で考えてみてください。正面突破は難しい。でも小さな隙を突ければ、少ない戦力で大きな成果を上げられる。だから峠道を使うんです」 「しかし、情報部の報告では……」 「情報は時に欺くためにも使われます」 俺は麻雀の経験を思い出していた。相手に手の内を悟られないように、あえて別の牌を切ることもある。戦場も同じではないだろうか。 「私はこう読みました。信じてもらえますか?」 兵士たちは互いに顔を見合わせた。完全には納得していないようだが、命令には従うだろう。 「わかりました。指示に従います」下士官は渋々と頷いた。 「ありがとう。では配置につこう」 ...

2025-03-27 00:00 · 折口詠人

第9話「評価の芽」

「何だと? あの坊ちゃん補佐官が演習で勝ったって?」 北方軍総司令部の食堂で、若い士官たちが驚いた声を上げていた。演習から二日後の朝、俺の勝利の噂はすっかり広まっていた。食事を取りながら、その会話が耳に入ってくる。 「グレイ中尉相手に勝ったらしいぞ」 「あり得ないだろ……」 「いや、本当だよ。俺の友人が審判役だったから」 小さな優越感を感じながらも、俺は黙々とパンを食べ続けた。昨日も一日中、北部国境の防衛計画の修正作業に追われていた。セリシアと一緒に、お互いの視点を組み合わせた新たな計画を立てているところだ。 「おはよう、ソウイチロウ」 テーブルの向かいに、クラウスが朝食のトレイを持って座った。 「おはよう、クラウスさん」 「世間の評判が変わりつつあるな」彼は周囲の視線を示しながら言った。 「そうみたいだね」 「当然だ。15歳で軍の演習に勝つなんて、並の才能じゃない」 彼の言葉に、少し照れくさくなる。 「でも、たまたま読みが当たっただけだよ……」 「謙虚なのはいいが、自分の才能を過小評価するのもよくない」クラウスは優しく諭した。「お前には確かな『読み』の才がある」 「ありがとう」 「それにしても」クラウスは声を落とした。「今回のことで、よからぬ目を向ける者も出てきたようだぞ」 「え?」 「ヴァイス大佐の派閥だ。彼らは将軍の方針に批判的で、お前の抜擢にも不満を持っていたんだが、今回の成功でさらに警戒を強めているらしい」 俺は首を傾げた。軍内の派閥争いについては、まだ詳しく知らない。 「なぜ? 俺はただ自分の仕事をしているだけなのに」 「若すぎる才能は、時に既存の秩序を脅かすものだからな」クラウスは意味深に言った。「特に、将軍のお気に入りとなれば」 「そんな……」 「心配するな。ただ、少し気をつけておけというだけだ」 「わかった。ありがとう」 朝食を終え、執務室に向かう途中、セリシアとすれ違った。 「おはよう、セリシア少尉」 「おはよう、ソウイチロウ」 彼女の口調は演習前よりも柔らかくなっていた。まだ完全に心を開いてはいないようだが、少なくとも敵対的ではない。 「今日も防衛計画の続きですか?」 「ええ。13時から作戦室で」 「了解です」 互いに会釈して別れる。演習での勝利は、少なくともセリシアとの関係改善にはつながったようだ。 *** 「ここにヤークト小隊を配置すれば、正面と峠の両方をカバーできるわ」 セリシアは地図の上に小さな駒を置いた。作戦室で二人、防衛計画の最終調整を行っていた。 「うん、いいね。そうすれば機動力も確保できる」 夕方までかかるだろうと思っていた作業も、二人で協力したおかげでスムーズに進んでいた。セリシアの論理的思考と俺の直感的読みが、意外と相性が良いことがわかってきた。 「あの……一つ聞いていい?」セリシアが突然話題を変えた。 「なに?」 「あなたの『読み』はどこから来るの?」 予想していた質問だったが、答えに窮する。前世で麻雀をやっていたとは言えないし、かといって適当な嘘をつくのも気が引ける。 「難しいな……これは天性のものかな」 「そう簡単に信じられないわ」彼女は真剣な目で俺を見た。「あなたの分析には、論理的根拠がないように見えて、実は筋が通っている」 「そう?」 「ええ。演習の時も、敵の行動パターンを読み取っていた。単なる直感ではないわ」 彼女の鋭い観察眼に少し驚く。 「まあ……似たようなゲームで鍛えたのかもしれない」 「タロカのこと?」 「ああ、そうだね」 セリシアはしばらく考え込んだ後、頷いた。 「タロカで培った読みが、戦術に応用できるとは……面白いわね」 「将軍も言ってたじゃないか。『タロカの才は戦場でこそ活きる』って」 「確かに」彼女は少し笑みを浮かべた。「あなたの『読み』は、私の論理的分析では見えない部分を捉えている気がする」 「君の分析も素晴らしいよ。僕一人じゃ、あんな詳細な防衛計画は立てられなかった」 互いを認め合うような会話に、少し気恥ずかしくなる。 「では、この計画で将軍に報告しましょうか」 「うん、そうしよう」 二人で資料をまとめ、廊下に出ると、ドーソン少佐が立っていた。どうやら、しばらく外で聞いていたようだ。 「ドーソン少佐、何かご用でしょうか?」セリシアが敬礼しながら尋ねた。 「いや……将軍が計画の進捗を確認したいそうだ」 少佐の態度はまだ冷たいが、演習前よりはマシになった気がする。 「ちょうど完成したところです」俺は答えた。「今から報告に行くところでした」 「そうか……」少佐は少し考え込むように俺を見た。「演習の件は……よくやった」 渋々ながらも褒め言葉? 驚きのあまり言葉に詰まる。 「あ、ありがとうございます」 「調子に乗るなよ。一度の成功に過ぎない」 ...

2025-03-27 00:00 · 折口詠人

第10話「この軍、読める」

「この報告書、なぜ急に流れが変わるんだろう……」 執務室で、俺は大量の報告書を前に呟いた。偵察任務に向けての準備として、過去の報告を読み込んでいたのだ。シバタ大尉率いる部隊に同行するのは明日。少しでも状況を把握しておきたかった。 パラパラとページをめくりながら、不思議なパターンに気づいた。報告書の前半と後半で、文体やトーンが微妙に違うのだ。 「これって……書いた人が途中で変わってるのかな?」 更に詳しく見てみると、司令部内の報告書の回覧ルートにも特徴があった。ある種の報告書は必ず特定の人物を経由し、別の種類は全く別のルートを通る。 「どうやら、軍の書類にも"流れ"があるみたいだな」 麻雀における河の読みのように、報告書の流れからも情報が読み取れる。誰がどの情報に目を通し、誰が最終決定に影響力を持つのか。権力構造が見えてくる。 「面白いな、これ」 うつむいて書類に向かう俺を、セリシアが見つけた。 「まだ作業してるの? もう夜遅いわよ」 彼女が執務室のドアから顔を覗かせた。演習以来、彼女との関係は良好になりつつある。 「ああ、明日の偵察任務の準備でね」 「何を読んでるの?」 セリシアが近づき、机の上の書類を覗き込んだ。 「過去の報告書。でも、面白いことに気づいたんだ」 「何?」 「この軍の情報の流れには、明確なパターンがあるんだ」 俺は気づいたことを説明した。情報の種類によって回覧ルートが違うこと、誰がどんな情報に目を通すのか、そこから見えてくる権力構造について。 セリシアは驚いたように俺を見た。 「あなた、戦場じゃなくても読み合ってるのね」 「ああ、そうかも。麻雀……じゃなくて、タロカっぽいよね」 「でも、なぜそんなことを?」 「知っておくに越したことはないと思って」俺は率直に答えた。「誰がどんな情報を持っているか知れば、必要な時に素早く適切な情報を得られるから」 セリシアは腕を組んで考え込んだ。 「面白い視点ね。私は報告書の内容だけを見ていたけど、その流通経路まで分析するなんて」 「流れを読むのは、タロカの基本だからね」 「あなたのタロカの才能は、本当に多方面に応用できるのね」 彼女の声には感心したような調子が混じっていた。 「勝てるなら場所は問わないさ」 俺はそう冗談めかして言った。 「勝ち負けにこだわるのね」 「まあ、そうかな。勝つために流れを読むっていうのが、俺のアプローチだから」 セリシアは少し考えてから、真面目な表情で言った。 「それなら、あなたの才能は確かに軍に向いているわ。戦場は究極の勝負の場だから」 「そうだね……」 少し気恥ずかしくなって、話題を変えた。 「明日の偵察任務、緊張するよ」 「初めての実戦に近い任務だものね」セリシアは理解を示すように頷いた。「でも心配ないわ。シバタ大尉は優秀だし、何より危険な場所には行かないから」 「そうだといいんだけど……」 「私も最初は緊張したわ」彼女は珍しく自分のことを話し始めた。「はじめて前線に出たとき、足が震えて仕方なかった」 「セリシアでも?」 「もちろん。誰だって初めは怖いものよ」 彼女の意外な告白に、少し親近感が湧いた。いつも完璧に見えるセリシアも、初めは不安だったのだ。 「ありがとう。少し安心したよ」 「あまり遅くまで起きてないで、早く休みなさい」彼女は元の口調に戻った。「明日は早いんでしょう?」 「そうだね、もう少ししたら休むよ」 セリシアは軽く会釈して、部屋を出て行った。 (彼女も、少しずつ心を開いてきてるのかな) そう思いながら、俺は再び報告書に目を戻した。 *** 翌朝早く、俺は北方軍の馬小屋にいた。今日から始まる偵察任務のため、馬に乗る必要があったのだ。問題は、俺がほとんど乗馬経験がないということ。 「こりゃまたぎこちないな」 馬の世話係の老兵が笑いながら言った。俺は何とか鞍に座っているものの、明らかにバランスが悪い。 「す、すみません……」 「いいさ、みんな最初は下手だ。この子は温厚だから、乗りやすいはずだよ」 彼が手綱を俺に渡してくれた。茶色の馬はおとなしく、大人しく立っている。それでも初心者の俺には、十分に緊張する乗り物だった。 「よしよし、いい子だ」 恐る恐る馬の首を撫でてみる。馬は小さく鼻を鳴らした。かわいいな、と思う瞬間もあるが、それ以上に「落ちたらどうしよう」という不安が勝っていた。 「補佐官殿、準備はいいか?」 振り返ると、シバタ大尉が立っていた。30代前半で厳格な表情の男性だ。噂によれば、実戦経験豊富な優秀な将校らしい。 「は、はい! ……たぶん」 不安そうな俺の様子に、シバタ大尉は軽く笑った。 「初めての乗馬か?」 「はい……この二日で少し練習したんですが」 「心配するな。ゆっくり移動するから、しっかりと鞍につかまっていればいい」 彼の言葉に少し安心する。 「集合場所に向かおう。部隊は待機している」 「はい!」 ...

2025-03-27 00:00 · 折口詠人