第9話「古代遺跡の発見……?」

 松明とランタンの光が、広大な石造りの広間を照らし出していた。ドーム状の天井からは長い年月を経た鍾乳石が垂れ下がり、その先端から水滴が落ちる音が時折空間に響く。中央の台座を取り囲むように立つ四人の姿が、壁に映る影となって揺らめいていた。

「本当に信じられない」ライルは改めて広間全体を見渡した。「これほど立派な空間が、ずっと村の近くに眠っていたなんて」

 メリアは周囲を歩きながら、壁面に刻まれた模様を手で触れていた。「これだけの規模の施設を作るには、相当な技術と人手が必要だったはずよ。しかも、村の歴史書にも詳しい記録がないなんて」

 ライルは台座から離れ、広間の壁面に沿って歩き始めた。壁には数多くの紋様や文字らしきものが刻まれていたが、多くは長い時間の中で風化し、はっきりとは読み取れなかった。それでも部分的に残った文様は、かつてこの場所がただの洞窟ではなく、重要な施設だったことを物語っていた。

「ここに何か書いてある」ライルは松明を近づけて、比較的保存状態の良い文字列を照らした。「でも、どんな言語かわからないな」

 フィリスが近づき、その文字に目を凝らした。「これは……古神語の一種かもしれないわ」

「古神語?」ライルは驚いて振り返った。「読めるの?」

 フィリスは首を横に振った。「完全には読めないわ。私の記憶も断片的だから……でも、いくつかの文字は見覚えがある」

 彼女は指先で文字を優しくなぞった。文字は石の表面に深く刻まれており、触れると指先にその形が伝わってくる。

「この部分は……『泉』とか『水』に関連する言葉かもしれない」フィリスは続けた。「そして、ここには『神の』という言葉があるわ」

 メリアが別の壁面を調べながら声を上げた。「こちらには図のようなものもあるわ。見て、これはこの広間の見取り図じゃないかしら?」

 ライルとフィリスはメリアの元へ駆け寄った。確かに、壁には円形の図形が刻まれており、中央に小さな円、その周りに何本もの線が放射状に広がるデザインが見えた。まるで今彼らがいる広間と中央の台座を表しているようだった。

「これは設計図かな?」ライルは興味深そうに尋ねた。「この施設を作った人たちが残したものなのかな」

 コルは独自に広間を探索していた。彼は鼻を床に近づけ、何かの匂いを追うように歩き回っていた。時折立ち止まって床を掻き、その後また進むという行動を繰り返している。

「コルも何か見つけようとしているみたいだね」ライルはコルの行動を見守りながら言った。

 フィリスは静かに頷いた。「コルは神獣だから、普通の動物には感じられないものを感じ取れるのよ。特に地脈の流れには敏感だわ」

 コルはやがて広間の端にある小さなアルコーブのような凹みに向かって走った。三人もそれに続いて近づくと、そこには壁とは異なる材質の板が埋め込まれていた。金属のようにも見えるが、錆びている様子はなく、むしろ光沢のある石のようだった。

「これは何だろう?」ライルはその板に松明を近づけた。

 板の表面には、より複雑な文様と文字が刻まれていた。中央には七つの異なるシンボルが円形に配置されており、それぞれが何かを表しているようだった。

「七つのシンボル……」フィリスの声には何かを思い出そうとする緊張感があった。「七柱の神を表しているのかもしれないわ」

「七柱の神?」メリアは驚いて尋ねた。「古い神話に出てくる、この世界を創造したとされる神々のことね」

 フィリスは静かに頷いた。「そう。地・火・水・風・光・闇……そして時の七つの属性を司る神々よ」

 ライルはシンボルをよく見てみた。確かに、一つは炎のような形、別のは波のような曲線、さらに別のは樹木に似た形をしていた。

「この板、単なる装飾じゃなさそうだね」ライルはボードの縁を調べた。「何かの操作パネルとか、情報板なのかもしれない」

 コルがその板の前で鳴き、前足で一つのシンボル——樹木のような形をしたもの——を指すように触れた。

「木のシンボル……地の神のシンボルね」フィリスはつぶやいた。彼女の目に、認識の光が宿るのをライルは見逃さなかった。

 広間の探索を続けながら、三人はさらに多くの文様や装飾を発見していった。天井近くには星座のような配置の点が刻まれており、壁の一部には水の流れを表現したと思われる曲線の連続もあった。床には同心円状の溝が刻まれており、すべてが中央の台座につながっていた。

「この場所、祭壇のようにも見えるわね」メリアが言った。「古代の人々が何かの儀式を行った場所なのかしら」

「または、何か実用的な施設かもしれないね」ライルは床の溝をたどりながら考えを述べた。「これらの溝は、水を運ぶためのものかもしれない」

 フィリスは黙って聞いていたが、その表情には徐々に何かを思い出しているような変化が見られた。彼女はゆっくりと中央の台座に戻り、その表面に再び手を置いた。

「フィリス?」ライルは彼女の様子を心配そうに見つめた。「何か思い出したの?」

「はっきりとは……でも、これが何なのか、感覚として理解できる気がするわ」フィリスは台座を見つめながら答えた。「この場所は、神々の時代に作られたものよ。人々が神々と交わるための場所……」

 メリアは驚きの表情を隠せなかった。「神々と交わる? つまり、祈りの場所? 神殿のようなもの?」

「それだけじゃないわ」フィリスは続けた。「もっと……実用的な目的もあったはず」

 コルが再び台座の周りを走り回り始め、特定の場所で立ち止まっては足で床を掻く仕草を繰り返していた。ライルがよく見ると、床には放射状の溝だけでなく、細かな文様も刻まれていることに気がついた。

「床にも何か書いてある」ライルは膝をついて、松明の光で床の文様を照らした。「円形の文字……まるで説明書きみたいだ」

 フィリスが近づき、床に刻まれた文字を見つめた。彼女の表情が一瞬こわばり、そして何かを理解したように目を見開いた。

「なんてことかしら……」彼女はつぶやいた。「この施設は……」

「フィリス?」ライルは彼女の変化に気づき、心配そうに尋ねた。「何がわかったの?」

 フィリスは答える代わりに、床の文字に優しく触れた。その瞬間、彼女の指先から微かな光が漏れ出したように見えた——しかし、それは松明の揺らぎによる錯覚かもしれなかった。

「これは……」フィリスは言いかけて、言葉を探すように目を閉じた。

 メリアとライルは息を呑み、フィリスの言葉を待った。コルも静かに座り、金色の瞳でフィリスを見つめていた。松明の火が静かに揺れ、四人の影が壁に大きく映る中、広間は不思議な静寂に包まれていた。

 この石造りの広間は、かつて栄えた古代文明の遺跡なのか。それとも神々が人々と交わるために作られた特別な場所なのか。フィリス自身の過去とも関わりのある謎が、この深い地下に眠っていた。

 フィリスはゆっくりと目を開け、床に刻まれた文字を見つめながら言った。「これは……」