第6話「探検の計画」

 一夜明け、ライルは早朝から洞窟のことを考えていた。朝食の準備をしながら、洞窟に行くための計画を頭の中で練っている。

「何を考えているの?」フィリスがリビングから入ってきた。彼女は髪を軽く結び上げ、すっきりとした表情をしていた。「朝からずいぶん真剣な顔ね」

「洞窟のことを考えていたんだ」ライルはフライパンで卵を焼きながら答えた。「今日はメリアさんに相談して、明日にでも探検に行きたいと思って」

 コルが伸びをしながらキッチンに入ってきて、ライルの足元で小さくあくびをした。朝日を浴びた彼の銀色の毛並みが美しく輝いている。

「おはよう、コル」ライルは微笑みながら言った。「君も洞窟が気になるよね?」

 コルは元気よく尾を振り、肯定の意思を示した。

 朝食は、ライルの畑で採れた新鮮な野菜と卵を使ったシンプルな料理だった。フィリスはライルの作る料理を毎回のように褒め、今朝も目を輝かせながら食べていた。

「本当に美味しいわ」彼女は満足そうに言った。「神の口に入るものとしてふさわしいわ」

「ありがとう」ライルは照れくさそうに笑った。「今日の野菜は特においしくできたみたいだね」

 朝食後、三人は村の中心部へと向かった。メリアの薬草小屋を訪ねると、彼女は庭で薬草の手入れをしていた。

「おはよう、ライル、フィリス、コル」メリアは明るく挨拶した。「今日はどうしたの?」

「昨日見つけた洞窟のことなんですが」ライルは真剣な表情で言った。「明日、探検に行こうと思っているんです。メリアさんも一緒に来てもらえませんか?」

 メリアは手を止め、興味深そうに顔を上げた。「洞窟の探検? それは面白そうね」

「はい、村長さんから聞いた話では、昔は特別な場所だったかもしれないとのことで……」

「そうね、私も子供の頃に噂は聞いたことがあるわ」メリアは思い出すように言った。「その洞窟の中には珍しい薬草があるという話もあったわ。もし本当なら、私の薬の研究にも役立つかもしれないわね」

 フィリスが前に出て、「私も何か感じるの。地脈の流れが……特別なの」と真剣な表情で言った。

 メリアは二人を見比べてから、にっこり笑った。「分かったわ。私も行くわ。洞窟の探検なら、薬草の知識が役に立つかもしれないし」

 ライルとフィリスの顔が明るくなった。コルも嬉しそうに鳴いた。

「ありがとうございます!」ライルは嬉しそうに答えた。「それじゃあ、明日の朝、ここに集合しましょう」

 次に三人はガルド村長の家を訪ねた。村長は庭で朝の体操をしていたが、三人を見ると手を止めた。

「おや、みんな揃って何かあったかい?」

 ライルは洞窟の探検計画について話した。村長は真剣に聞き入り、時折頷いていた。

「そうか、洞窟の探検か……」村長は少し考え込んだ後、「気をつけて行ってくるといい。私の記憶では危険な場所ではなかったが、長年放置されているからな」と言った。

 そして村長は家の中へ入り、古い羊皮紙を取り出してきた。「これは私の祖父が書いた村の地図だ。正確ではないかもしれないが、洞窟の位置も大まかに記されている。役立つかもしれないぞ」

 ライルは感謝しながら地図を受け取った。確かに東の丘の辺りに小さな印が付けられていた。

「村長、洞窟について何か他に知っていることはありますか? 昔は何か特別な場所だったとか……」

 村長は遠い目をして言った。「詳しくは分からんが、祖父から聞いた話では、その場所には昔、何かの施設があったらしい。何のための施設かは分からんが、村ができる前からあったものだとか」

「施設……?」フィリスが興味深そうに尋ねた。

「ああ、古い建物のようなものだったらしい。だが、詳しいことは私も知らん。長い間忘れられていたからな」

 この情報に、三人の好奇心はさらに高まった。

 村長の家を出た後、ライルはドリアンの鍛冶屋にも立ち寄り、探検に必要な道具について相談した。ドリアンは喜んで協力し、懐中ランプやロープ、簡易な掘削道具などを貸してくれることになった。

「洞窟の探検か……楽しそうだな」ドリアンは笑いながら言った。「何か面白いものが見つかったら、ぜひ教えてくれよ」

 昼過ぎ、ライルたちは自分の家に戻り、探検の準備を始めた。まず必要な物のリストを作り、食料や水、応急処置キットなどを揃えていった。

 フィリスは興奮した様子で、「もし本当に何か古代の遺跡があったら、それは神々の時代の名残かもしれないわ」と目を輝かせて言った。

「そうかもしれないね」ライルも期待を膨らませた。「でも、村長が言っていたのは『施設』だったよね。一体どんなものなんだろう」

 コルは二人の会話を聞きながら、時折東の方向を見て耳を動かしていた。彼は何か感じているようだったが、相変わらず言葉では伝えられない。

 午後、ライルは畑仕事をしながらも、頭の中は明日の探検でいっぱいだった。久しぶりに冒険のような気分を味わえることに、心が躍る。王都にいた頃は、魔導士の勉強ばかりで、こうした自由な探検をする機会はなかった。

 畑仕事を終えると、ライルは家に戻って荷物の最終確認をした。フィリスはコルと一緒に、リビングで地図を広げて研究していた。

「ライル、この地図によると、洞窟の近くに小さな泉があるみたい」フィリスが指さした。

「ほんとだ」ライルは地図を覗き込んだ。「村長は何も言ってなかったけど、もしかしたらその泉と洞窟には何か関係があるのかもしれないね」

 夕食の準備をしながら、二人は明日の計画について話し合った。洞窟までの道のり、持っていく食料、帰りの時間など、細かい点まで決めていった。

 ライルが作った夕食は、自家製のハーブで味付けした野菜のシチューだった。窓の外では日が沈み始め、家の中に心地よい夕暮れの光が差し込んでいた。

「明日は早起きしないとね」ライルはシチューをすくいながら言った。

「ええ、わくわくして眠れそうにないわ」フィリスは嬉しそうに答えた。

 シチューの香りが部屋中に広がり、三人はゆったりとした時間を過ごした。コルも特別にシチューのおこぼれをもらい、満足げに尾を振っていた。

 食事の後、ライルはランプの灯りのもと、探検の荷物を最終確認した。懐中ランプ、ロープ、水筒、食料、応急処置キット、メモ帳と鉛筆……すべて揃っている。

 就寝前、三人はポーチに出て夜空を見上げた。満天の星が輝き、明日の天気が良さそうなことを示していた。

「明日は良い天気になりそうだね」ライルは言った。

「ええ、探検日和よ」フィリスは星空を見上げながら答えた。

 コルは二人の間に座り、夜風に吹かれて気持ち良さそうに目を細めていた。彼の毛並みが月明かりに照らされて銀色に輝いている。

「さあ、明日に備えて早く寝よう」ライルが言うと、三人は家の中に戻った。

 ベッドに横になったライルは、明日の探検に思いを馳せながら、徐々に眠りに落ちていった。窓の外では、満天の星が東の丘の方向を優しく照らしていた。そこには、未だ謎に包まれた洞窟が、彼らの訪れを待っているかのようだった。